吉田:ただ、ここをもっとよく考えてみると、クライアント企業って、果たして「what to say」を明確にできるのだろうか。クライアントは広告したい商品に関して、スペックは言えるんですよ。でも、その先はなかなか言えない。ということは、むしろ広告がそこから「what to say」を探し当てて、「how to say」につなげていくべきなんじゃないかな。

:なるほどね。

吉田:なのに現実に広告会議で行われている話は、クライアントが言うスペックを「what to say」ということにして、広告はそこから「how to say」を考えましょう、ということ。その決まった手順の中では、本当の「what to say」が議論されないままだから、広告は消費者に届かないわけですよね。

:その問題提起は鋭いと思いますね。僕もまさしく、そこを言いたいわけですが、ただ「what to say」を決めるって、すごく能力が必要なことなんですよ。それについて、「僕たち広告制作者がやりますよ」と言ったら、クライアントは、ただそこにいればいい、お金さえ出してくれればいい、という話になりかねない。微妙ですよね。

吉田:そうか。でも、「what to say 」と「how to say」が吟味されていなければ、商品として成立しないし、売れることもないんですよ。なのに今は、スペック+プロモーションという図式が本当に多くて、それが広告の全体的なパワーダウンの一因になっていると思う。

「そんなこと、現実には聞けません」

:吉田の言うことはごもっともです。世の中の広告のほとんどがスペック+プロモーションであることは、僕も否定しない。ただ、実際、会議の現場で、僕がそこを問い詰めていくことは、あり得ないわけですよ。だって、クライアントがスペックを出して、「売ってくださいね」と言っている商品に対して、「そもそも、その商品の意味は何なのですか」なんて言ったら、「なんだ、その言い草は。だったらお引取りください」になっちゃうでしょう。

吉田:うーん。

:「そもそも、なぜこの商品が今、世の中に登場するんですか」ということは、僕だって聞きたいですよ。でも、それは、「あなたっていったい、どんな価値があるの?」と等しいぐらいの危険な質問なわけです。だって、相手の存在意義を問うわけだから。

吉田:そうだよね。

:だから現実の僕は、結局、聞けないわけ。

その葛藤はご自分の中で、どう処理していくんですか。

:広告を付帯することによって、この商品に価値が生まれるかもしれない、と思う。

かもしれない、と。

:たとえば100円の缶コーヒーの場合、各メーカーの各ブランドによるおいしさの違いというのは、実はそれほど大きくはないはずなんですよ。だからこそ、そのブランドが展開する広告キャンペーンの比重が大きくなってくる。長年にわたって、一貫したトーンとクオリティーを保っているキャンペーンを行っているメーカーのものが勝つ。

吉田:その付加価値が、広告制作者のいう「表現」ということだよね。

:その付加価値を剥ぎ取って、「この缶コーヒー自体にどんな意味があるんですか?」ということをクライアントに問えるかといったら、やっぱり、そこは難しいでしょう。だって広告を打とうというクライアントの目標は、突き詰めれば「儲かりたい」という1点に集約されていくんだから。

吉田:まあ缶コーヒーなら、疲れたときに飲むとほっとするとか、分かりやすい価値はあるよね。でも、そういった日常の嗜好品より、もっと大きいものを想定して、僕はこの話をしているんだよ。たとえば電気機器とか自動車とか。

:今、日本のメーカーはテレビなんかで、苦境にいるわけだけど。

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