そのような状況で、ブランディングを上手にやっている企業はありますか。

:日本で言えば、ユニクロやソフトバンクなどは、新しい形でブランドを作ったと言えるんじゃないですかね。ただ、メディア状況が変化してからは、そのブランディングが広告によって実現したというより、経営的にものすごい売り上げを記録したとか、短期間に店舗がものすごく増えたとか、そういうことにおいてブランドが確立したんじゃないかと思う。

吉田:たとえばマクドナルドやスターバックスコーヒーもそうだけど、世界中に店舗がある企業は、消費者がテレビ広告を見ていなくても、町で日々、その店のロゴなり何なりを見ている。その意味で実質的な広告効果を発している。

要するに、テレビと同等の効果を持つ広告メディアが出てきた、ということですね。

吉田:昔はテレビCMを打てば、だいたい日本中に知名度が行き渡ったんだけど、今はそう単純じゃない。メディアが複雑化してきていますよね。

 その中で、ユニクロとソフトバンクは、好き嫌いは別にして、キャンペーンに一貫性があった。長い時間をかけて同じトーンのキャンペーンを、手を変えずにやってきたというのは、ブランド形成には大きなことだと思う。

:そうなると結局、ブランド=経営者ということになって、僕たちクリエーターの存在意義が薄れてしまうんだけどね。

連続増収増益が、企業を狂わせていく

吉田:でもね、だからこそ、それは両刃の剣で、経営がちょっとおかしくなると一気にブランドは毀損されてしまう。以前、雪印や不二家のブランドが、賞味期限の偽装や不衛生な環境で、一瞬にして地に落ちたでしょう。

 ここでちょっと話は横に逸れるけど、あれ以来、僕は広告のクライアント企業の経営に関してもウォッチングを続けているの。それで分かったのは、会社がおかしくなるプロセスの一つには、増収増益を続けているという条件があるということ。

:逆説的だな。

吉田:これは、ユニクロとソフトバンクのことを言っているのではないですよ。企業経営の一般論として言うんだけど、企業の経営というのは人の体と同じで、好調不調、失敗や成功を繰り返して、回っていくんだよね。会社の損益は、必ずしも右肩上がりを続けるものじゃなくて、上ったり下がったりをしながら、存続していくものなんです。

:それはスポーツもそうだよね。野球にしても、サッカーにしても、常勝なんてあり得ない。

吉田:勝つ時期と負ける時期があって、その負けたときに敗因を思考して、チームが少しずつよくなっていく、というのがまともな形でしょう。

 だから企業でも5年続けて増収増益です、となると、その右肩上がりを維持することがいつのまにか絶対目的になってしまって、トライ&エラーを体質的に怖れる方向に行ってしまう。これ、日経ビジネスオンラインの読者の方には、言うまでもない話だと思いますが。

:吉田が言った絶対目的という言葉を受けて言うと、そもそも企業が広告を打つときに、目的を明確にしているか、という疑問はある。

吉田:岡はそのことを以前から言っていた。つまり「what to say(何を言うか) 」と「how to say(どのように言うか)」の違いについてなんだけど、クライアントは「what to say」を、広告は「how to say」を明確にするべきだ、と岡は語っていたんだよね。

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