でも逆に、今は情報量があまりに多すぎて、過去のことは、もっとどんどん忘れている感じもするのですが。
吉田:それが、そうでもないんですよ。
いったい誰がそんな過去のことにアクセスするのですか。
吉田:もう、いろいろな人ですよ。いろいろ変な人。
岡:まあ、ちょっと変な人ですよね。
吉田:せんさく好きな変な人。そういう人がアクセス権を持ってしまった。
岡:吉田がこういうことをちらっと言うと、たちまち炎上しちゃうからね。もちろんインターネットをやっていなくたって変な人はいるんだけど、この人は変だな、というのは、かなりインターネットが好きな人の中にいると思う。
吉田:日本ではネットが匿名で広がった。そのことは、一つの問題ですよ。アメリカだと匿名の意見というのは、さくっと無視されるんだけど。
岡:海外では記名の意見だけしか残らない。
吉田:それこそが日本発のミクシィと、アメリカ発のフェイスブックの差にもなるんだけど、日本は島国で世界が狭いから、言いたいことを実名で出すと差し障りが残る、という感覚が根強くあるんでしょうね。
村社会で生きていけなくなりますからね。
岡:ということは、日本では匿名性は消えず、このまま、はびこっていくんだ。
実名のメリットを享受するのは、実はグーグルじゃないか?
吉田:かといってアメリカでの実名というのも、かなり胡散臭いんだよ。
たとえば僕はGメールを使うときは実名だけど、ユーチューブを見るときはハンドルネームを使っているの。別に変なものを見ているわけじゃないけど、それは自分の趣味嗜好だから、実名で公開するのはちょっと恥ずかしいな、という気持ちがある。でも、アクセスするたびに、グーグルから「あなたは『ノゾム・ヨシダ』の名前で統一した方がいいんじゃないですか」とサジェストが来るんだよ。
岡:そうすると、どういういいことがあるの?
吉田:うん、それは僕、どう読んでも分からないんだよね(笑)。グーグルにとって何かいいことなんだろうな、と思うんだけど。
一方で、「ウィキリークス」や「2ちゃんねる」のような匿名を担保するような世界は、これからも、残っていくと思うんだけど。それは功罪両方の面があると思うけど、どれが功で、どれが罪かは、判断しにくい。たとえば今は、企業に対して消費者が匿名でどんどんメールを送ってくるようになっているでしょう。
岡:そこの部分が、僕の仕事にもかかわってくる。
吉田:インパクト強めの表現で広告キャンペーンを企業が打った場合、100人のうち90人が面白いと思っていても、後の10人のうちの1人でも「不愉快です」と企業にクレームを付けたら、企業はリスクを取りたくないから、それをもってキャンペーンをやめよう、もしくはトーンダウンさせよう、ということになってしまう。
岡:ネガティブな意見は、実は少数派なのだ、ということは企業も分かっているんだけど、いいよ、それを乗り越えて進めていこう、というふうには、なかなかならないですよね。
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