小田嶋:津田さんに対する誤解というよりも、世の中のとらえ方が違うのかな。イリーガルな世界とイリーガルじゃない世界が真っ二つに分かれてあって、「あいつらは悪いやつで、我々は正しいんだ」、というふうに思っている人たちがいるんだよね。ということは、「実はグレーゾーンの方が、ずっとでかいんだよね」、ということを分かってない人たちがいたということですよ。
津田:確かに。音楽業界や出版業界には、「インターネットの分かる人というのは、何となくアングラっぽいというか、全部、イリーガルの人に見える」という人が、けっこうな数でいました。
小田嶋:著作権を無視するのか、みたいな人たち。それは今でもありますよね。
津田:当時40歳前後の、テレビと大手新聞と大手出版社の人たちですね。
小田嶋:「あいつらは俺たちのコンテンツをタダで流そうとしている」みたいな警戒感ですね。CD屋のおやじが、「何、このCDをタダで流しているやつがいるのか?」みたいなムードで。
津田:その状況は、アナロジーで説明すると、理解を得やすくなるんですけどね。いや、そうはおっしゃいますが、ラジオって、音楽をタダで聴けますよね、と。で、音楽ってどうやって普及しているかというと、ラジオを通してでしょう、という話で。
小田嶋:うん。昔は「エアチェック」という言葉がありましたよ。アナログの時代は、みんなエアチェックをやっていたんですよ。
「エアチェック」は、ファイル交換の走りだった
津田:あれは、言ってみれば、お手製のファイル交換ですよね。だって80年代はFMラジオの番組表雑誌が、50万部とか売れていたわけですから。まったく今と情報環境が違う。
小田嶋:エアチェックはアナログとはいえ、かなり高音質で取れていたじゃないですか。それがまたカセットになって、大学生の間で出回っていたでしょう。それが宣伝になって、さらに広まっていく。音楽って複製されて流れるものだよ、という話は、それこそエジソンの時代からそうなんですよ。
津田:日本のレコード業界にはCDレンタル悪玉論というのがずっとありましたが、あれも誤解だと思うんですよね。例えばアメリカは、ラジオが何千局とあるんです。それで、いわゆる貧困層はみんな、ラジカセだけ持って、そこから音楽を聴く文化がある。
小田嶋:ラップなんていう音楽は、人の音楽の上で勝手に歌っちゃいますからね。著作権だのといったら、とんでもない話になる。
津田:日本では、そのラジオ文化に代わるものとして、レンタルCDがあったわけですよね。
小田嶋:そうか。それは図書館も似たところがあります。音楽で起こったことが今、文字の世界にも波及してきているでしょう。
ミュージシャンとか、音楽業界の人とか、CD屋さんだとか、Napstarをめぐって起こってきたことを一度見てきた人たちが、今、電子書籍をどうやって見ているのかというのは、ちょっと興味を惹かれます。活字はちょっと音楽とは一緒にはできないかもしれないけど。
津田:例えばYouTubeが出てきたときというのも、多くの人は「YouTubeって何?」って、その意味がよく分からなかったと思うんです。でも、あれは要するに、ファイル交換なんですよね。
小田嶋:確かにそうですよね。
津田:Napstarは確かに便利だけど、ソフトをインストールして、ルータの設定をして、と、何かと結構面倒くさいじゃないですか。
小田嶋:はいはい。
津田:そういう敷居を初心者用に低くして、ブラウザーでぱっとアクセスするだけで見られちゃうようにすると、ものすごい勢いで普及する。だからYouTubeが出てきたときに、成功した理由は、すぐに理解できたし、これは大流行するなと思いました。
小田嶋:そのときに、こいつを広げちゃならんと考えている人たちがいたわけですね。
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