小田嶋:それはまた……。バイオメトリクスだったり光ファイバーだったりは、まるっきり分かっちゃっている人が書くと、素人にはまるで分からない原稿になるのね。それで、「いまいち分かりましぇん」みたいな人が一生懸命、泣きながら書くと、そこそこ素人に分かる原稿になる。そういう微妙な立ち位置ですよね。

津田:まさにそうなんですよ。だから、死ぬ思いで、泣きながら本を読んで、とにかく原稿を書いた覚えがあります。でも、あれはいい経験でした。締め切りがあって、知らないことを知ったかのように書くという経験を積み重ねていくと、結構、自分の栄養になるんですよ。

小田嶋:変な説明能力が身に付きますよね。

津田:そうそう(笑)。

小田嶋:分からないことを説明しなきゃいけないというのは、これは大変なことなわけですよ。

津田:もやもやっとしたものに形を与えるという経験はラジオとかテレビで番組を持つようになった今も生きてますね。僕は2000年か2001年ぐらいが、ライターとしては一番売れっ子の時期で、15誌ぐらいあったインターネット雑誌のうちの11誌ぐらいで書いていました。

小田嶋:ひええ。で、アクティビストとして、3次元の活動が活発になるのは、どのぐらいからなんですか。

津田:いやー、それは最近の話ですよ。ライター仕事でいろいろな経験と知識を積んでいくうちに、仕事の枠だとかボーダーだとかに対するこだわりが、どんどんなくなってきて、インターネット中継だろうが、何だろうが、やれることはがんがんやるようになれ、って。

 だから僕の全部の原点は、やっぱりNapstarなんです。Napstarは音楽だけじゃなくて、すべてを変えてしまうと思えたことが、本当に大きかった。

 だってNapstarって、クラウドの原型にもなっていたし、実はSNSの原型でもあったんですよね。

小田嶋:ああ、そうか。

買っていたのは中味であって、本じゃない

津田:「Friendstar」といった初期のSNSが出るよりも先に、Napstarにはコミュニケーション機能が付いていましたから。

小田嶋:「お前のライブラリーを見たよ、センスいいな」というメッセージ機能が付いていた。

津田:それで友達ができる、みたいなことがあって。

小田嶋:Napstarって、意外な人を誘引しているんですよ。今までのプログラムオタクだったり、技術オタクだったりする人たちとはまったく性質の違う人――俺なんかもその組に入るんだろうけど、音楽のオタクではあっても、パソコンのオタクからは全然離れていたのが、もう1回舞い戻ってきたのは、Napstarのせいですからね。

 Napstarは、業界の人間とかには、何かの破壊者みたいな言い方をされたけど、あれこそアクティべーターですよ。いろいろなことをアクティベートする不思議な出入り口みたいなものだったんですよね。

津田:僕はあれで、今の時代の情報というものの本質が分かった気がしました。我々は「CD」を買う、「本」を買う、「雑誌」を買うと言っていましたが、実は買っていたのは中身であった、と。

小田嶋:そうそう、コンテンツという概念が、そこではっきりしました。

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