小田嶋:翻訳とは話が離れるけど、村上春樹の小説に出てくる女性像との性的な関係というのは、俺にとっては想像できないところにある。
岡:男と女という話に関しては、僕もリアリティーを感じない。でも、村上春樹が突き詰めたい世界みたいなものはよく分かるし、僕は好きですよ。ただ、私が選んだ5冊には入れたくない、というか(笑)。
「春樹問題」で一掃されてほしくない人たちは、ほかにいますか。
小田嶋:そうだね。俺は、最近の重松何某さん。
岡:清さんだよ。
小田嶋:最近、若い人たちが書いた小説をいくつか読んだんだけど、今のやつの方が全然、できがいいんだよね。
岡:今の作家の方が達者なことは確かだよ。

小田嶋:好き嫌いだとか、全面的に支持できるかとかは別にして、「同じ文章書きとして、ちゃんとした小説だと思いますか」と聞かれたら、「いや、恐れ入りました、きちんとしたものでございます」としか言いようがない。私らは、とてもじゃないですけど、こういう真似はできませんっ、て感じがするわけだよ。
謙虚に。
小田嶋:そう。だいたい、柴田翔とか昔の人の小説はさ、こういうのは俺がやってもいいんだよ、って感じがするわけだよ。みっともないからやらないけど。
柴田翔については、高飛車なんですね。
俺って、田舎の後家だったのか
小田嶋:そう、こんなもんだったら、という感じがするぐらい欠点の多い作品ですよね。例えば『されど われらが日々――』は、伏線の張り方が露骨だったり、文体がちゃんと書き分けられていなかったり、せっかくちょっと凝った構成で手紙と地の文と時系列を揃えているのに、手紙が全然手紙になっていなかったり、長過ぎたり。赤を入れたくなります。
さんざんなご指摘ですね。
小田嶋:その点、重松清はきちんと書けている。
岡:直木賞だからね、重松清は。
小田嶋:そう。だから一掃してはいけない人の中に入ると思うんだけど、じゃあ、文学としての魅力はどうなんだ、と少し真面目な問いを設定したら、重松清よりこっち側――太宰やら三島やらの方があるような気がする。
それはやはり、すでに亡くなられている方が有利なのではないでしょうか。
岡:重松さんの場合は童話なんだよ。その寓意も含めて、よくできているんだけど、分かりやす過ぎちゃって、僕にしても、もう1つ来ない。でも立派な作家ですよ。
小田嶋:我々の時代に星新一がそうであったように、あれを入門として、子供たちが本の世界に、というものだよね。
岡:そう、入門書なのかもしれないね。だから職業作家という感じで、文学者とかそういうんじゃないんですよ。沢木耕太郎さんはどう?
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