小田嶋:いや、ちょっとカッとしただけなのにな、という感じがあるじゃない。本当に降りちゃうとは思わないじゃない。

:・・・。

小田嶋:でも、ああ、降りちゃった、ということになるじゃない。で、うわあ・・・どうしよう・・・と思って、電話したら出ないとか、そういう別れってあるよね。でも、もっとひどいことをしている人がいるのにさ。

:しかも、それでモテているのに。

だって、戻って、どうするの?

小田嶋:いや、別に俺だって、てめえなんか降りろ、とすごんだわけじゃないんです。嫌なら降りれば? という程度のことを言っただけなんですけど。どうして降りちゃうの?

さて、ここでもう1回、お2人の「青春の5冊」をご紹介しておきましょう。

小田嶋:あ、話の腰をばしんと・・・。

○岡 康道さんの5冊(順不同)

『長いお別れ』 レイモンド・チャンドラー

『邪宗門』 高橋和巳

『斜陽』 太宰治

『されど われらが日々――』 柴田翔

『絢爛たる影絵―小津安二郎』 高橋治

○小田嶋 隆さんの5冊(順不同)

『車輪の下』 ヘルマン・ヘッセ

『素晴らしいアメリカ野球』 フィリップ・ロス

『仮面の告白』 三島由紀夫

『ヒューマン・ファクター』 グレアム・グリーン

『百年の孤独』 ガルシア・マルケス

小田嶋さんはどうして太宰治を「5冊」に入れなかったんですか。

小田嶋:やっぱり、ある時期から嫌な影響を受け過ぎたので、恥ずかしい。認めるのは認めざるを得ないんだけど、ただ、太宰が好きな人なんだと思われることの面倒くささが、自分の中で屈折しているんです。

:僕だってそうですよ。太宰が好きだと正直に言い始めたのは最近です。若いときは言えない。

今で言う「聖地巡礼」ですね

小田嶋:お前は隠れて桜桃忌にも行っちゃっていたから。しょうがないよね。

クリエイティブディレクター 岡 康道氏(写真:大槻純一、以下同)

:高校生のときに2回、行っちゃっているからね。その日は朝から禅林寺(注・太宰治のお墓があります)がある三鷹方面に行って、三鷹の図書館で太宰をもう1回読んで、自分の中で雰囲気を高めてから、夕方の桜桃忌に向かう、みたいな。もう正気とは思えないわけ。

小田嶋:三島由紀夫を好きだとカムアウトすることだって、相当恥ずかしいんだけど、でも、三島は5冊に挙げることができるんだよ。『仮面の告白』は、同性愛者の男の内面告白なんだけど、「私は無益で精巧な一個の逆説だ。この小説はその生理学的証明である」という自己解題にしびれた。小説としては破綻だらけなんだけど。

:三島の短編で、剣道部の夏の合宿の話が僕には印象深い。合宿で誰かがルールを破って、そのために主将が自決するという話だったと記憶しているんだけど、それが不思議と美しい話だった。そういう感想を表に出すことにも、かなり抑圧はかかったんだけど、太宰とチャンドラーが好きだということは、さらに高校生当時は言えなかった。

小田嶋:チャンドラーは、岡が読んでいるのは全然知らないで、大学に入ってから読んだ。大学3年生ぐらいのときだから20歳だよね。そりゃ17歳では、かっけえ~、と素直に口に出せないだろうけど。

:何しろ、孤独といい女と強い酒。友情と煙草、だからね。大人になるのが恐くなくなった。だけど、そんなことは人には言えないよ。恥ずかしい話だけど、10代の頃は、自分は知的な、ある種、抽象性の高いものごとにしか影響を受けない、と自己設定してたから。

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