岡:だけど大学を出て、就職もしないで、ジャズ喫茶をやれるわけだからさ。もともと神戸のぼんってことでしょう。
小田嶋:ご両親は国語の先生だか何だか、と、どこかで読んだことはありますよ。
岡:そうなの? でも芦屋だからね。
小田嶋:芦屋じゃね。冗談じゃないよね。
岡:こっちは北区とか豊島区だからね。
小田嶋:そうだよね、貧乏といっても質が違うのよ。
だとしたら、田山花袋への批評は近親憎悪的なものなのですか?
小田嶋:いや、そういうわけじゃないですよ。だって俺ら、田山花袋みたいな貧乏はしてないからさ。ただ日本文学って、そういう湿っぽい感じのあれがあるのよ。
太宰治もその系譜ですか。
小田嶋:太宰治は、俺は一番最初にかぶれていた。

岡:俺はたぶん、小田嶋に勧められて読んだと思うんだけど。お前は『富嶽百景』とかを高く評価していた。
小田嶋:とにかくこの人は、女学生文体も、疑古文調も、戯曲も、日本語のあらゆるものを全部書けた人だから、才能は疑いないのよ。だけど人格がくだらなすぎた。
岡:だけど三島だって、ずいぶんくだらないと思うんだよね。
小田嶋:三島も立派な人とは言えないけど、でも、どういうわけか、三島由紀夫は自分の「5冊」にわだかまりなく入れられる。
心の中にひとりずつ、太宰治は住んでいる
岡:結局、両者とも人を巻き込んだという意味では同じなわけだよ。生き方にしても、死に方にしてもさ。女を巻き込むか、男を巻き込むか、ということですよね。
小田嶋:俺、三島由紀夫については人格を問うことはしてないんだよ。とにかくこの人の才能は素晴らしい、ということで評価しているんだけど、太宰治に関しては、才能は素晴らしいけど人格がな、という言い方をしてしまう。
岡:太宰は何か近い感じがするんじゃないの。三島は遠いよ、やっぱり。
小田嶋:何かロボットみたいな人だからね、あの人。
岡:本当は虚弱体質だったのに、それを自分の意思で異常なボディービルディングをして、あんな体になって、あんなふうに死んだわけだから。
小田嶋:マイケル・ジャクソンみたいな人ですよね。でも、太宰治は、すごくありがちな人。我々の中にも1人ずつ住んでいる。
岡:そう、住んでいる。うそばっかりついてね。
小田嶋:そう。うそつきで、見栄っ張りで、小心者で、だけど女にはちょっとモテたいとか、それぐらいのところだよね。困ったやつだよ。
岡:デビュー当時から、自分の実人生と小説が入り乱れているじゃないか、というふうに、ずっと批判されてきたんだよね。
小田嶋:石田純一じゃないか、と。
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