本記事は2010年11月8日に「日経ビジネスオンライン」の「人生の諸問題」に掲載されたものです。語り手の岡 康道さんが2020年7月31日にお亡くなりになり、追悼の意を込めて、再掲載させていただきました。謹んでご冥福をお祈りいたします。

(日経ビジネス電子版編集部)

 前々回から始まった「秋の読書」編。言葉をあやつるコラムニストと広告表現のプロ、しかも高校の同級生同士で選んだ「青春の5冊」をめぐる率直すぎるやりとりを、姉のようにクラスメイトのように見守る清野さんの冷静なツッコミ入りで、引き続きお送りいたします。あなたの「夜長の一冊」がここから見つかる、かもしれません。

 お約束ですが、本連載をまとめた最新刊『ガラパゴスでいいじゃない』、寝付きにくい夜にどこから読んでどこで終えても安心の読みやすさと面白さ。よろしくお願い申し上げます。

小田嶋:俺、せっかくだからと思って、自分が挙げた本を、来る前に本屋で探してきたんだよ。

:見つかった?

小田嶋:それが驚くことに、書店の店先ではほとんどが入手できないことを知って、愕然とした。ヘルマン・ヘッセの『車輪の下』がたった340円だった、ということは、まあいいにしても、フィリップ・ロスなんて自分的にはずっと大きな名前だったのに、30年たつともう跡形もなくなっている。岡の挙げている名前なんかも、大半がすっとばされていく運命だよね。

:そんなことはないだろう。

ここでもう一度、お2人が挙げた「青春の5冊」をラインナップしてみましょう。

○岡 康道さんの5冊(順不同)

『長いお別れ』 レイモンド・チャンドラー

『邪宗門』 高橋和巳

『斜陽』 太宰治

『されど われらが日々――』 柴田翔

『絢爛たる影絵―小津安二郎』 高橋治

○小田嶋 隆さんの5冊(順不同)

『車輪の下』 ヘルマン・ヘッセ

『素晴らしいアメリカ野球』 フィリップ・ロス

『仮面の告白』 三島由紀夫

『ヒューマン・ファクター』 グレアム・グリーン

『百年の孤独』 ガルシア・マルケス

:チャンドラーは(書店の棚では)生きているんじゃないの?

価値と必ずしも関係ないかも

小田嶋:それは村上春樹が手を触れたから。メデューサの逆で、彼が手を触れたものは何でも蘇っちゃうんだよ。『邪宗門』なんて、何ですか、それ、の世界だよ。

:高橋和巳って、もう流行らないのかな。僕は自分のリスト本を読み返して、柴田翔はとんでもない偽物だと分かったけど、高橋和巳はやっぱりすごいと思った。確かに読みにくい文体だし、『邪宗門』は新興宗教を扱っていて、かなり重いものではあるんだけど。

小田嶋:それがうまいことに、柴田翔は文庫で新装されてまだちゃんと残っているんだよ。

:えっ・・・。

小田嶋:しかし高橋和巳は店頭からほぼ消えている。ネットの古書市場ではプレミアが付いていたけど。

:どっちが本の価値を表すか、ということに関しては微妙だよね。

続きを読む 2/5 「春樹問題」が吹き飛ばす作家たち

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