岡:まあ、そのときに書かれたことは直らないもんね、結局。そこは一生ですよ。
成長というより、開き直ったんですね。
小田嶋:小学校の先生って、本当によく見ているよね。俺は小学校2年のときに、「自分の中だけで勝手に物を考えています」と通信簿に書いてあった。
鋭い。
小田嶋:それは親に向けて書かれた言葉だったんだけど、大人になってから読んでドキッとしました。
岡:それで話を戻すと、僕の読書史には『パール街の少年たち』の前に『さるかに合戦』があるんだよ。
ずる賢いことをした猿を、臼が上からばーんとつぶす、あれですか。
岡:そう。小さいときにこれを読んだ僕は、これじゃあ猿がかわいそうだって、親に向かって駄々をこねたらしいんだよね(笑)。だから結構、感受性が豊かな子だったんだよ。
小田嶋:というか感情移入の方向が間違っているよ。
岡:いや、だって、猿は蟹が持っていたおむすびが欲しかったんだよ。それで柿の種と交換しようって、まんまと取り替えるんだよね。それで、蟹が柿の種を植えて、柿が実ると、猿が上にのぼってそれを食べちゃう。蟹は地上で悔しがり、という展開で。
小田嶋:岡は、猿がアイディアマンだということに惹かれている。
岡:これ、猿の企画だからね。
小田嶋:企画は猿だから、猿が主人公じゃないの、という。岡康道的にいうと、一番アイディアが豊富なのはプランナーである猿。その猿が報酬を得るべきなのに、最後に臼たちに成敗されるのは、おかしいじゃないか、と言っている。
岡:いやいや、そんなこと言ってない。だけど、『さるかに合戦』のドラマは、やっぱり猿が起点なんだよ。猿がいないと物語が動かないんだ。
小田嶋:いや、善良な蟹を、悪辣な猿が騙している、という見方もできるわけだよ。と言うか、普通はそっちなんだよ。
背伸びしてそれですか
あの・・・坂本龍一に対抗するはずだったのが、猿だの蟹だの、これでいいのでしょうか。
岡・小田嶋:(しーん)
岡:(気を取り直して)だって、それは幼稚園のときの話だから。次はちゃんと別の本に行ったからね。
小田嶋:そこから急に背伸びして、早熟な文学少年の方向に行った、とでも言うのか。
岡:次は『長靴をはいた猫』だった。
小田嶋:『長靴をはいた猫』ね。シャルル・ペローの童話だね。あれもやっぱり、長靴をはいた猫がすぐれたプランナーだった、という話だよ。
岡:どうだか知らないけど、『長靴をはいた猫』というのを小学校3年生ぐらいのときに読んで、すごく好きだった。
小田嶋:子供の読み方って不思議で、俺も『長靴をはいた猫』は好きだったけど、もっと若いときに一番好きで、繰り返し読んでいたのは、スピードの遅いロードローラーが、みんなにばかにされている話。
『のろまなローラー』ですね。
小田嶋:その、のろまなローラーこそが道を造るんだよという、そういう教訓的な話だった。
童話は非常に深い含意がありますよね。で、このまま絵本路線で行きますか?
岡:(我に返って)いや、だめだ。大人のラインナップに戻ろう。『されど われらが日々――』だよ。僕は、恋愛というか、女性像に、この小説で激しく影響を受けてしまいましたからね。
(アダルティな次回へ続く)
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