:俺の場合はね、「たけのこ文庫」っていうのが学校にあった。それは別に文庫本じゃないんだけど、要するに小学生が読むべき本として、50冊が教室の後ろに並べられていた。「誰が最初に読み終わるかな」なんて先生が言っていて、僕は「けっ」って思っていたんだけど、6年生のときに、どっちかの肺に影があるとか言われて、1学期間、体育が禁止になっちゃったのね。

小田嶋:へえ。ジャイアンのようなお前が。

:外に出るのもだめって。

小田嶋:初めて聞いたよ。肺に影って、『白い巨塔』の世界でしょう。

:そう言われちゃったんだよ。でも結局、あばら骨の奇形だか何かだった、ということで。

左脳に続いて。(シーズン1・第2回「『受験』と『恋愛』と『デニーズ』と」参照)

:それで体育は見学だし、外でも遊べないからさ、もうやることがない。じゃあ本でも読もうかな、ということで、だから「たけのこ文庫」を一番最初に読破したのは、当然ながら僕だった。そこから結構、読書癖が付いたんだよ。

そのときに印象に残った名作とは?

:『パール街の少年たち』です。

小田嶋:・・・それ、記憶の底から思い出した。メジャーな児童文学というよりも、とても渋い作品だよね。

:そうなの? ハンガリーのブダペストの少年たちが、街の原っぱをめぐって2派に分かれて争う物語なんだけど、僕は生まれて始めて、本を読んで泣いた。

生まれて初めての「涙の理由」は

泣きましたか。

:少年たちはそれぞれ“大統領”を筆頭にチーム内で身分と序列を決めて相手と闘うんだけど、主人公は要領が悪くて、いつだってみそっかすなんだよ。闘いではそいつが果敢に役割を果たすんだけど、最後には死んでしまう・・・んだ・・・(涙)。

小田嶋:小学生向けの図書が、かわいそう物であった時代はあるよね。

:かわいそう物、って何だよ、それは。

小田嶋:ほら、『小公女』とか。当時は小学校の通信簿でも、公共心とかの項目があって、ABCが付いていた。あの項目には、同情心というものも確かあったはずだよ。

:そんなのないよ。

小田嶋:ともかく俺は、公共心のところはいつもCになっていた。

:協調性のところは常にCですよ、僕だって。「人の気持ちを考えて行動できるといいですね」っていつも書かれていたけど、なんて失礼なことを言うんだろうか、と子供心に悔しかったです。

成長して先生を見返す大人になれましたか。

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