小田嶋:小学生って一途じゃない? しかも、自分は勉強ができると思っていたから、何としても分からなきゃいけないって、とても一生懸命、読んだんだよ。おかげで、過剰にくみ取ってしまったんだよ。
それで一見、教養文学みたいなものの、実は破滅的なヘッセの世界観の影響をもろに受けて、それを50歳過ぎても、ずっと引きずっているわけですね。
岡:それって、読書のすすめというより、恐ろしい話じゃないか。
小田嶋:そう、話としては結構恐ろしい話だね。
岡さんは『車輪の下』は読まれましたか?
岡:うーん、僕も中学の後半ぐらいに読んだと思いますけど、何も覚えてないですね、『車輪の下』に関しては(笑)。
小田嶋:ヘルマン・ヘッセの小説って、内容をくみ取る感受性を持っている人間と、持ってない人間と、きっぱり分かれる作家なんだよ。
岡:嫌なことを言うじゃないか。

小田嶋:ぴんとこないやつにはこない。
岡:ぴんとこなかったですよ、俺は。
小田嶋:でも、思春期にぴんときたら、逆に不幸だとも言えるんだよ。だって、ここに書いてあることは、「大人になるって汚いことだぞ」ということだから。ドイツの名門寄宿舎学校に入学した主人公のハンスくんは、だんだんとくだらない大人に近付いていく同級生の間で、最後まで純粋な心を持ったまま死んじゃうわけさ。
岡:死んじゃうの?
小田嶋:うん。死んじゃったことさえ、世間はけろりと忘れていくぜ、という、嫌な終わり方をしていく。
岡:そんな内容だったっけ。
小田嶋:まあ、要約すればだけど(笑)。
「教養」は、中学生には毒なのかも
小田嶋さんは何でこれをお読みになったんですか。
小田嶋:「中一コース」に「読め」って書いてあったから。
「中一コース」のせいですか。
小田嶋:あともう1つは、うちのおやじとおふくろは教養のない人だったから、子供には教養を付けさせたいって間違って思い込んでいたの。そういう時に親が考えるのが、旺文社文庫の中学生向け世界文学ナントカ全集みたいなもので。
岡:あった、あった。100冊ぐらいあったんじゃなかった? ドストエフスキーとか。
小田嶋:ドストエフスキーの『罪と罰』とか、そういうのがずらっと並んだやつを俺は買い与えられたの。それで、じゃあ読むか、と。
岡:読んだんだ、それを。
小田嶋:全部は読んでないけど、きっとほとんどは読んだね。
で、それがよくなかった、と。
小田嶋:だって、中学生に読ませる本じゃないですよ、基本的に。日本文学ナントカ全集についても言えるんだけど、教養のあるおやじだったら、息子に谷崎なんて読ませないよ、絶対。だって中学生があの『鍵』とか読んだら、これは何ごとか、と思うよね。
岡:『卍』とか。
小田嶋:そう、『卍』とか。団鬼六とほとんど変わらない、どうしようもない変態文学だよ。
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