本記事は2010年10月25日に「日経ビジネスオンライン」の「人生の諸問題」に掲載されたものです。語り手の岡 康道さんが2020年7月31日にお亡くなりになり、追悼の意を込めて、再掲載させていただきました。謹んでご冥福をお祈りいたします。

(日経ビジネス電子版編集部)

 前回の番外編では、プロ野球解説者の高木豊さんが読書に目覚めた、というフレッシュなエピソードが最後にありました。季節はまさしく読書の秋たけなわ。岡さん×小田嶋さんの本編に戻った「人生の諸問題」でも、この時期にふさわしい話題をしばらくお届けします。

 おっと、秋の夜長、ベッドサイドのお供には本連載をまとめた『ガラパゴスでいいじゃない』『人生2割でちょうどいい』をお忘れなく。

お2人は、坂本龍一さんが始めた「スコラ」というCDブックのシリーズはご存知ですか。

:何?

音楽コンテンツが超多様化して、聴き手が混乱している今の時代に、ひとつの基準を提供する、というコンセプトのもとに、サカモト教授が、自身の音楽的な経験と教養にもとづいて編集されている全集です。バロック音楽から、ジャズ、ドビュッシー、ラヴェルといったラインナップが、浅田彰との対談などと一緒に編集されています。

:すげえ。

小田嶋:あの人はいつも、こういうカッコいいことをやって・・・。

その第1弾がバッハのCDブックで、これは八千いくらもして、価格もすごく上流なのですが、内容はさすがです。まあ、この連載をどうまとめても、ここまでにはとてもならないとは思うのですが。

:ハナから諦めているじゃないか。

目標は高い方がいいと思いまして。

小田嶋:では、読書界における坂本龍一的な位置を目指すということですね。

クリエイティブディレクター 岡 康道氏(写真:大槻純一、以下同)

:書評ということで言えば、すでにアツシの連載という圧倒的すぎる文章があって、もう僕たちは本についてしゃべってはいけないんじゃないか、という感じもある。(注・アツシの連載=岡敦による「生きるための古典(※2021年現在掲載終了)」。岡敦さんは岡さんの実弟で、小田嶋さんとも若い時代をともに過ごされています)

小田嶋:やっぱりああいう文を書かれちゃうとね。アツシは、どうしようもない人のための何とかいうコンセプトで書いているでしょう。(注・正しくは「生きるための古典」です)。ヘーゲルやらヴィトゲンシュタインやら、僕は全然分からないから何度も読みました、みたいなことを愚直に記していて、あれはすごく勇気があると思った。

:普通はもっと見栄を張ったり、気取ったりするけど、アツシは本気だからね。

小田嶋:ついていきにくいものがあるよね。

ふたりの「青春の5冊」とは?

大丈夫、そこまでは期待していませんから。ということで、お2人からは「青春の5冊」というラインナップを以下にいただきました。

○岡 康道さんの5冊(順不同)

『長いお別れ』 レイモンド・チャンドラー

『邪宗門』 高橋和巳

『斜陽』 太宰治

『されど われらが日々――』 柴田翔

『絢爛たる影絵―小津安二郎』 高橋治

○小田嶋 隆さんの5冊(順不同)

『車輪の下』 ヘルマン・ヘッセ

『素晴らしいアメリカ野球』 フィリップ・ロス

『仮面の告白』 三島由紀夫

『ヒューマン・ファクター』 グレアム・グリーン

『百年の孤独』 ガルシア・マルケス

まず小田嶋さんは『車輪の下』が一番最初に。

小田嶋:ここに並べたのは、ちょっとアツシくんの影響もあるのよ。アツシくんが「生きるための古典」で書いている通り、読んでもよく分からない本というのは、結果的に自分の内側に残ってる気がするのね。

 振り返ってみても、若いころの自分が影響を受けた本って、スッと読めた本じゃなくて、全然分からなくて、それでも背伸びして読んだ難しい本だったりする。『車輪の下』も、やっぱり中学1年生には、ちょっときつかったわけ。きつかったどころか、それ以前の俺は、『フランダースの犬』ぐらいのものしか読んだことがなかったわけだから。

:『怪盗ルパン』とかね。

小田嶋:そうそう。あと『シャーロック・ホームズ』をちょっと。『車輪の下』は、難しいというほどは難しくないけど、ついこの間まで小学生だったやつが読んだんだから。

:そりゃきついよ。

続きを読む 2/4 「教養」は、中学生には毒なのかも

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