小田嶋:Napstarっていうのは、ファイル交換ソフトの元祖で、それもハードディスクの中にあるソフトをお互いに探し合って、「これをよこせ」とか、「これをやっちゃる」とかができる。ただ、Napstarの時代はまだ音楽だけだった。今から思えば信じられないけど、初めのうちは、音楽ソフトのやりとりだけで、「えっ、音楽ってタダになっちゃったの?」という、すごい驚きがあった。

津田:最初の衝撃は大きかった。

小田嶋:俺なんかは古い音楽ファンだったから、血の出るようなお金をレコードにつぎこんでいたわけですよ。それを、「えっ、こいつらタダで?」と。

津田:僕もすごくCDとか買いまくっている人生だったから、分かります。でもCDの時代でも、友達との貸し借りというのは当たり前にやっていたじゃないですか。

小田嶋:やっていましたね。

ヒッピーの夢がそのまま現れた

津田:その貸し借りが、何か強烈に最大化されて、世界中とつながったら、これは夢のような世界だな、みたいなことを思っていたら、ここに夢があったぜ、という。

小田嶋:交換経済とかシェアする文化とか、ヒッピーコミューンの理想形が、ある日突然できちゃったように見えたんですよね。

津田:あのころ、レコード会社がリーガルな音楽配信を手がけ始めていたんですが、パソコン雑誌の取材でレコード会社に行って、雑談していると、「最近、ADSLを入れたんだけどさ、Napstarって速くて本当、快適。本当、最高」みたいなことを、レコード会社の幹部の人が言っているわけですよ(笑)。

小田嶋:つまり、一番音楽が好きな人たちが、最初にNapstarにハマっていくわけで。俺の友達なんかでも、音楽関係のやつは全員、Napstarに入って、それで1日中ダウンロードしているという生活を送っていました。

津田:でも僕は、CDはCDで買っていましたよ。

小田嶋:Napstarで集めるんだけど、結局、それをまたCDで欲しくなるというのがありましたよね。だから、あれは必ずしも音楽を滅ぼしたわけじゃなくて、フリーミアムっぽかったですよね。

津田:だって、あれがあったから、iTunesができたわけですからね。

それは、クラウドの始まりだった

小田嶋:1990年代のおしまいから2000年代の頭にかけては、ネットが出てきて、パソコンの性能が上がって、パソコンの世界が一番アナーキーだった時代です。

 その前の1980年代というのはマニアの時代だから、それなりに面白いことは起こっていたんだけど、マニアの間で行ったり来たりしていただけで、閉じていました。で、その後に、それが世界に広がって、いろいろなものがただで流通するようになって、2000年代の途中ぐらいから、今度は全部産業化しちゃうんですよね。

 産業化って課金のことで、そうなると、例えばグーグルに入るやつはエリートだけになるとか、そういう時代になる。

津田:Napstarに話を戻すと、僕にしても、2000枚とかのCDを持っていると、職場や家に散乱しちゃって、「あれが聴きたいんだけど、どこかに行っちゃってるな」というのがあるわけですね。そんなときにNapstarを検索すると、あったりする。それじゃ今すぐあの曲聴きたいから取りあえず落とそう、みたいになり、そういうときに「あれ? これって、俺は違法行為をしているのか?」っていう問いが自分の中に生まれた。今考えると、買ったコンテンツをデジタルデータにしてネット上でいつでも落とせるようにするって、要するに今で言うクラウドコンピューティングなんですよね。

小田嶋:ああ、確かに。

津田:自分の持っているものを、ネットのどこかに置いていて、それを落としているにすぎない、という。クラウドという概念や単語が生まれたのは2006年なので、Napsterが出てきた1999年の時点では当然クラウドという言葉はありませんでしたが、あのとき既に「世の中はたぶんこうなっていくんだろうな」ということは感じていました。

小田嶋:このころに我々が抱いた予感というのは、実はあんまり間違えてないんだよね。

津田:だって「iTunes Store」のインターフェースって、Napstarと、まるっきり同じですからね。

小田嶋:だからジョブズという人のすごいところは、テクノロジーだけじゃなくて、シェアという考え方だったり、構造であったりするところに目を付けたところなんですよね。彼は単純なエンジニアじゃなくて、アジテーターだったんですね。

(→後編に続きます)

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