岡:まず最大の喪失として、親が死ぬということがありますよね。それから親が死ぬころというのは、自分の体力も失っているんだよね、悲しいことに。記憶力とかそういうのを失っているというのは、俺はあんまり感じないんだけれど、それからあとは何だろうね。
小田嶋:記憶力は失っている感すら失っている(笑)。
そう、正しくは。
岡:正しくはそうだった(笑)。もう何を覚えていたのか、自分でもよく分からないんだもん。
小田嶋:何かを忘れているような気がする、というやつ。
岡:あと、何を失っただろう。
手にはいるときには、いらなくなっている
小田嶋:俺の場合、一番失っているのは、物欲かもしれない。
若いころにものすごく車が欲しかったじゃない? それで、せっかく手に入るようになったら、そんなにうれしくないじゃない。
岡:うん。
小田嶋:いい車を借りに行くのも大してうれしくないでしょう? 昔はすごく安い車でも自分の車だ、ということで、うれしかったのに。
岡:何だろうね、あれ。
小田嶋:だから、手に入るようになるころには、もういらなくなっている、って、いろいろなことであるよね。

岡:ということは時間なんだろうか。この先、自分の時間がすごくあると思うと、何か手に入れたモノによって、自分の人生が変化していくんじゃないか、というような気持ちになるんじゃないか。でも僕たちにはさ、そんなに時間はないじゃない、もう。
小田嶋:もうない(笑)。
岡:それほどないよ。そうなると、「別にこれを今、買ったからってな…」みたいな感じにもなるよね。
世の中のベストセラーを見ると、「しがみつかない」とか、「断捨離」とか、手放す方面がウケているので、その意味でお2人は流行を押さえていますよね。
小田嶋:いや、自分がそういうふうに、だんだんいらなくなってくると、それが一番不幸なんじゃないかという気がするよね。
岡:仏教の偉い先生とかは、欲がなくなれば、人間、悟ることができる、と言うけれど。
小田嶋:欲が減ると確かに手間はかからないんだけど、でも、何かうれしくないじゃない。
岡:欲がなくなるというのは、死への準備を始めているということだもんな。
最近の本が「つまらない」理由が分かった
いや、ここで死まで向かわなくても。
岡:いやいや、そうだって。老人を見ていれば分かりますよ。
小田嶋:俺も実は徐々に来ているの(笑)。まず、老眼になったときにちょっと来たでしょう。
岡:来た来た。

小田嶋:何かパソコンのケーブルを後ろ側に挿すときに、近寄って見たら、どっちがインかアウトか分からなかったりするわけよ。あれあれ、これって老眼なのか? となって。そのとき3日ぐらいふさぎ込んだよ。
岡:僕は、「最近の本ってつまらないんだな」とずっと思っていたんだけど、そうじゃなかったんだよ。目が読めないから苦しかったんだよ。
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