「日経ビジネス電子版」の人気連載コラムニスト、小田嶋隆さんと、高校時代の級友、故・岡康道さん、そして清野由美さんの掛け合いによる連載「人生の諸問題」。「もう一度読みたい」とのリクエストにお応えしまして、第1回から掲載いたします。初出は以下のお知らせにございます。(以下は2021年の、最初の再掲載時のお知らせです。岡さんへの追悼記事も、ぜひお読みください)

 本記事は2010年9月6日に「日経ビジネスオンライン」の「人生の諸問題」に掲載されたものです。語り手の岡 康道さんが2020年7月31日にお亡くなりになり、追悼の意を込めて、再掲載させていただきました。謹んでご冥福をお祈りいたします。

(日経ビジネス電子版編集部)

 お待たせしました、1年ぶりに「人生の諸問題」が先週から復活。そしてなんと講談社さんから、第1シーズンの単行本『人生2割がちょうどいい』に続いて、第2シーズンを編集・加筆した『ガラパゴスでいいじゃない』が、8月26日に発売になります。

 いや、本当にお待たせしました。ということで第3シーズンは前回(世間なんて相手にせずに、「ガラパゴス」でもいいじゃない?)に続き、「文化というガラパゴス」と、「経済というグローバル」の関係について、お話を続けてまいります。ネットを介して、経済や世間からの影響が、広告やコラムの表現という「ガラパゴス」に押し寄せてくる時代に、おふたりはどんな未来を見るのでしょう。

前回から読む)

:…だから何だろうね、ツイッターとか何やかやで、みんなの声が――って「みんな」の声ってカッコ付きの声なんだけど、それが聞こえないときの方が広告はやっぱり面白かったよね、作るほうも見る方も。

ガラパゴスのほうが楽しかった?

コラムニスト 小田嶋隆氏(写真:大槻純一、以下同)

小田嶋:これは有名な話なんだけど、どこかのブログが炎上したときに、その何千という書き込みのログを全部取ってみたら、結局、5人ぐらいの人間だった、という話もあるぐらいで、いくら炎上だとはいっても、そんなに何千人が書き込みに来るわけじゃないんだよね。

:広告のクライアント企業も、身を守るためにという理由で、自社広告に批判的なコメントを集めているからね。そうすると作る方としては、面白いことはできなくなっちゃうんですよ。

アメリカでは炎上ってよくあるのでしょうか。

:アメリカって、何をやるにも本名じゃないといけないっていうムードがあるでしょ。

小田嶋:というか、あんまり掲示板自体が流行らないって聞いた。

:ネットでも、カルチャーの違いはあるだろう。

小田嶋:アメリカはわりとブログがベースにあって、匿名で物を言うことでは満足ができない人たちでしょう。だって向こうで一番流行っているSNSが「フェースブック」だもんね。自分の発言として、本名と顔を付けていないと満足できない、というメンタリティで、スピーチ訓練の時間が学校にあるような国の人たちって、そうなのかもしれないよね。

ネガコメの原因は「拒否された」気持ち?

クリエイティブディレクター 岡 康道氏

:アメリカはアメリカで問題を抱えているけど、だけどこんなになっちゃったらさ、よっぽどアメリカの感性の方がまともだと思うよ。もうびびり過ぎだもん、日本中が。

小田嶋:ネガティブコメントって、それを見たり読んだりする側にとっては、アタマに来た、という「怒り」よりは、分からなかったとか、共感できなかったとかしたときの「失望感」がベースになっていたりするみたいだけどね。

:それは、自分だけのけ者にされたような疎外感があるということ?

小田嶋:そう、疎外感。

:広告の表現へのネガティブコメントについて言えば、「分からない」ということだけじゃないと思うんだよね。

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