:そんなことは分かっている。分かっていることを、いちいち公の場で言う必要があるのか、という論法なんだよ。たぶんそういうチェックを趣味のようにしている人がいて、新しい広告表現や、ちょっと珍しいことは許さないぞ、ということになっているんじゃないかな。

小田嶋:昔でも、若干強迫めいたものを含んだ広告はなかったわけじゃないし、CMを見て不愉快に思う人は必ず一定数いたのよ。

 中でも、とても神経質な人たちは、どんなポジティブな広告だって、これは恫喝じゃないか、とぶつぶつ言っていたりしたんだと思うんだけど、それが今は企業にそのまま届くようになったということだよね。

:そうだね。

エクスキューズなしに表現ができない

小田嶋:しかも「2ちゃんねる」みたいなところでそれが共有されちゃうと、そうだ、そうだ、と拡大していくこともあるし。今までのメディアの人間が享受していた、送りっぱなしで反響については知らん顔できるという特権がなくなっちゃった部分、そこのところで作り手がすごく憶病になっているというのはあるだろう。

:もう明らかになっているよ。だからそういうものをやるときに、事前に自分たちでも、「きっとこれは何か来るだろうな」、と分かってしまうし。

小田嶋:お笑い番組で何か食べ物を扱うと「スタッフがおいしくいただきました」みたいな1行が必ず入るようになっていたりするでしょう。

 あれを食っているわけはないんだけれども、そういうエクスキューズをあらかじめ用意しておかないと何も表現できない憶病さが現場に広がっている。

:生きることは汚れていくこと、でもいいんだけどさ、そういうことって本当だけど、一応言わないで過ごしてきたわけじゃない、広告は。でも時々そういうことを言わないと、広告の訴えかけそのものがリアルじゃなくなっちゃうから、僕は入れているんだけど、必ず問題になっているんだよね(笑)。

小田嶋:広告みたいなものに対する許容度の意識も関わっているよ。例えば小説の中でどんな変態行為が描かれていようが、どんなネガティブな人生観が描かれていようが、それは勝手に読む人が読むんだからいいんだけど、広告は嫌でも飛び込んでくるんだから、みたいなお話があるよね。

:まあ、そうだね。

グローバルからガラパゴスへ押し寄せる波

小田嶋:嫌でも飛び込んでくるにしても、いろいろな人がいろいろな考えを持っていて、いろいろなことを言っているのが世の中なんだから、どこかの広告が自分の考えと反対のことを言っていたって、放っておけばいいのに、そうできないの。今まではそれを余儀なく聞いていたんだけど、何か反論できる場が用意されてしまった、という状況が出てきたよね。

:だから、ツイッターだの何だので、表現が明らかにつまらなくなっていますよ。

まさしく「ガラパゴス」だった表現の世界が、ネット経由で「グローバル」の荒波に襲われている、という感じなのですね。

(次回に続く)

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