小田嶋:まさしく、そう。

:だからいい話で、泣いちゃうんだけど、俺、この役は嫌だな、と(笑)。

小田嶋:あれはだから、その世代のうまくいかなかったサラリーマンが9割9分なわけだから。

:そうそう、俺もこれなんだよ、みたいな。

小田嶋:そうしてみると「地上の星」というのはよくできた歌だったね。あそこでこう、やっぱりね、あの歌がかかるとぐっときちゃう。

:きちゃうよ。ぐっときちゃうんだけど、思い出に対してぐっときてるわけだからさ、これから何かを始めようという子供たちにはこないわけよ。

小田嶋:そりゃこないよ(笑)。

:僕の息子も僕と一緒に「プロジェクトX」を見てたけど、途中で平気で席を立ってたもん(笑)。俺が涙ぐんでいる脇で。だからやっぱり嫌なんだよ、あの役は。

勝手に学ばれる父親たち

小田嶋:パパ社長に話を戻すけど、結局、子供の方はおやじから何か見習っちゃってるわけ、変なところを。うちの子供なんかでも、おそらくサラリーマンをばかにするような人生観が、どこかベースのところにあるはずなんですよ。

:親が教えていなくても、勝手に親からいろんなものを学んじゃっている、と。

小田嶋:だから宿題とかでもね、手を抜いて出しているのを見て「お前、いいの?」と聞くと、「だってこんなの出す必要ないじゃん」とか言って、親である自分も「そうだよな」とか納得しちゃっている(笑)。

教育してますよ、それ。

小田嶋:言いながら、ああ、こうやって伝えてしまっているのかって。

:でも、それはしょうがないよな、親がそう思ってるんだからな。自分たちだってまじめにやらなかったんだから、そんな急に子供に、お前はまじめにやれなんて、変な話なんだよ(笑)。

小田嶋:そうだよな。

:とはいえ、本当のところ、息子が高校辞めた時は、実に困ったんだよなあ。

小田嶋:そりゃあそうでしょう。

:すごい困ったよね。

小田嶋:ネタとしては面白いけど、現実は「さすが俺の息子だ」というふうにはならないでしょう。

:ならない、ならない。やっぱりどうしようかと、思ったよ。「俺のせいかな」って。でも途中から、待てよ、だったら通信教育を受けて大学に行くのも、面白いかも、となるんだけど。「お前、でも、ここから通信教育で大学に行くと、ちょっとかっこいいんじゃないの?」みたいな、そういうような面白がり方をしちゃって(笑)。

教育が行き届いていますね。

:息子は成城大学に行ったんだけど「『下から来ました』って言うといいぞ」って言ってやって。

一同:(??)

:いや、下の階層から来ました、と。

一同:(爆笑)

:そうやって考えると、何か面白くなって。下から成城のコピーはね、実は俺が考えた企画じゃなくて、麻生(哲朗・タグボートのメンバー)が考えた企画なんだけど。

ああ、他人の知恵まで借りて。

小田嶋:「逆流」とか言って流行らせて。下流志向じゃなくて、逆流志向。

一同:いいねえ。

すごい美人のお手伝いさんがやってきた

:そうやって大学へ行ったやつって学校が面白いらしいよ。だから朝から晩まで学校にいるよ、人恋しいから。

小田嶋:あのころ、お前と息子は2人「クレイマー、クレイマー」(※)みたいだったな。

(※1979年に公開された、母親に去られた父親のヒサンな子育てを描く映画。父の仕事は広告代理店勤務。当時、父子家庭という状況は映画になるほど衝撃的だった。クレーマーの映画ではない)

:息子が高校を辞めた時、俺は離婚して一人暮らしだったから、とりあえず、マンションで2人で暮らしてたの。でも、俺も独身なわけで、だから、いろいろ具合が悪いこともあるわけ。

具合の悪いこととは?

:とにかく息子と2人きりだと、どんどんどんどん部屋が汚くなっちゃう。しょうがないからお手伝いさんをお願いすることにして、週に1回来てもらうことになったんだけど、その人がすごい美人だったんだよ。

すごい美人だった、と。

:マンションの部屋で2人して、朝からぼーっとお手伝いさんを見てたりする(笑)。するとお手伝いさんも危険を感じて、次から幼稚園に通っている娘を連れてくるようになった。

牽制ですね。

:お手伝いさんが来る日は水曜日なんだけど、アパートは火曜の夜になると、何か混んでいるのね、息子の友達たちで。何でオマエ、そんなに友達連れてくるんだよ、と聞いたら、要するに、みんなお手伝いさんを見たいわけ。お手伝いさんが来るのは朝早くだから前の晩からいないといけないという。もう、全員、バカだった(笑)。

岡康道氏と小田嶋隆氏

小田嶋:でも、高校生ってそんなもんだよ。

:そうなんだよ。

小田嶋:昔、タケダの家庭教師の上州弁があんまり面白いんで、みんなで押し入れに隠れて聞いてたことがあった(笑)。

:それはまた、信じられないほど、ばかな話だな(笑)。

小田嶋:立松和平みたいな上州弁を真似したくて、身に付けたくて。そんなことでさえ珍しいんだから、きれいなお手伝いさんときた日には……。

:きれいなお手伝いさんだったら……。

小田嶋:それは泊まるでしょう。

:異様だよ、だから。水曜日は朝から食堂が立て込んじゃって。若い男が4、5人いるわけ。何で俺がこいつらの朝飯まで用意しなきゃいけないんだ、と思いながら皿を用意して。まあ、そんなふうにしてあのころ、過ごしていたわけです。

(ひといき入れて再開します。しばしお待ちを)

(2007年11月9日公開の記事を再掲載しました。)

「人生の諸問題」は4冊の単行本になっています。刊行順に『人生2割がちょうどいい』『ガラパゴスでいいじゃない』『いつだって僕たちは途上にいる』(以上講談社刊)『人生の諸問題 五十路越え』(弊社刊)

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