小田嶋:社長っていうのは、畳屋の店主でも、鉄鋼所の社長でも、あるいは八百屋の大将でもいいけど、一国一城の主で、とにかくサラリーマンじゃない人たち。そんなパパに育てられた子供たちだけしか入会資格がないんだけど、その人たちってやっぱりね、絶対にサラリーマンじゃないわけ、雰囲気が。

:なるほど。

小田嶋:岡のとこもそうだけど、俺も実はパパ社長なわけだ。で、パパ社長会の人たちと話していて気が付いたら、俺の付き合いって全員パパ社長なんだよ。

:パパ社長ね。

小田嶋:サラリーマンの息子じゃない、パパ社長の息子という人たちはどういう人たちかというと、会社に勤めていても、じきに辞めてやるという考えを、どこか頭に持っている。安定ということをハナから信じてないわけ。だってパパ社長は、親の暮らし向きがよかったり、悪かったり、うちがお金持ちだったり、だめだったり、いろんなことがあるでしょう。要するに世の中なんてどう転ぶか分かんねえさ、って思ってる気味がある。

:どちらかというとあまり安定的だったりしないで、行き当たりばったりの人たちが多いな。

小田嶋:うちの一族もみんなエリートじゃないパパ社長で、俺がサラリーマンになったよ、というのは、一種快挙と呼べることだったんだけど、あんなやつにサラリーマンが務まるもんかという風に思われているところも、かなりあって(笑)。あいつにサラリーマンが務まるもんか、という中には、劣等感を含みつつ、サラリーマンをどこか軽視している気味があるわけ。

:分かるよ。

創業社長は世の中を信じない

小田嶋:銀行員のことを銀行屋と呼ぶような、そういう感覚があると、ほら、やっぱりお前はサラリーマンなんかできないよなって。けなしてるんだか、褒めてるんだか分からないような、そういう雰囲気が家庭にはあった。それは結構でかいことかもしれない。

今のお話、興味深いですね。ベンチャー社長で東大出身の人って、だいたいパパ社長の子供なんです。今の世界でもやっぱり、最初から会社を起こしたれ、というには、どこか、組織とかをあまり信用しないおうちに育っていないとできないみたいで。

:まあ、そうだよね。

戦後、創業経営者をやってきた人で、会社員の家で育った人の比率は、サラリーマンになった人の比率から比べると、おそらく相当少ないはずなんです。

小田嶋:そうでしょうね。サラリーマンの子供って、何だかんだ言ってお父さんは背広を着て、朝出ていって、帰ってきて、あるいは会社の人と飲みに行って、みたいな暮らしの中で、お父さんの背中を見てるから、俺もああなるんだろうな、ということをわりと身に染みさせていると思うんです。

 でも、俺なんかは、うちは最近儲かってるらしいとか、うちも厳しいらしいとかの感覚しかない。岡のうちほどじゃないけど、うちも金回りのよかった時期とだめだった時期といろいろあるから、どうもサラリーマンというのが監獄みたいに感じられちゃうんですよ。

:残業とか宴会とか、な。

小田嶋:これがサラリーマンの子なら、残業があるぞ、とか言われても、いちいち驚かないで、普通そういうもんだよって納得するでしょう。付き合い酒だって、終わったら会社の人と飲みに行くのは当然だろう、みたいな感覚でいるわけですよ。でも俺は、何で私生活の中で俺はこの人たちと飲まなきゃいけないんだ、みたいに思う。それはやっぱりパパ社長だからなんですよ。

:それは確かにでかい。やっぱりどこか、そうね、いいかげんだしね、パパ社長の息子は。

小田嶋:そうそう。人生、運、不運だぜ、みたいな感じ。それで渡っていけちゃう。

そういう感覚を知らないサラリーマンの子供は、やっぱり向こう岸には崖があって、ガーッと水が滝壺に落ちている、というような恐怖を感じますね。

小田嶋:サラリーマンの息子だったら当然持っている、企業社会の常識みたいなことってあるんですよ。例えば電話がかかってきた時に、丁寧に出なきゃいけない相手と、そうでなくていい相手とを、自然と判別するでしょう。でも我々はそういうのを学んでいないわけですよ。誰に対しても「へーい」とか言って出てるわけ(笑)。

父が「会社はつまらない」と言うから子は辞める

:言われてみれば、タグボートも4人の設立メンバーのうち、3人までがパパ社長だな(笑)。

小田嶋:そうだろう。

:だから、やっぱり躊躇がないんだよね、電通を辞めるってことに対して。

普通、電通は辞めないですよ。

:いちばん若い麻生哲朗は企業に勤めるサラリーマンの息子だったから、やっぱり相当抵抗があったわけよ。

小田嶋:そうか。

:ただ、おやじに相談したら、定年間際だったお父さんが、もうサラリーマンはつまらないぞと言って、それで踏ん切りが付いたんだよ。お母さんは電話口で泣いていたと言っていたけど。

今の大人というか、お父さんたちは、サラリーマンになるってつまらないぞ、と子供たちに言うから、みんなぱっと辞めていくんですかね。

:それもあるかもしれない。

小田嶋:それは、内田樹先生が『下流志向』の中で、不快通貨(※)うんぬんという面白い論考を張っていたでしょう。それがちょっとあるかもしれない。だから、あまりにサラリーマンがつまらなくて面白くないぞ、と言い過ぎちゃったツケがきている。そんな不快通貨を家の中で発行しまくったから、こうはなりたくねえと。

(※不快であると表明することが、他者に対しての「通貨」的な役割を果たすのではないか、という説。「オレは不機嫌なんだから、お前はオレに気を使え」)

:それと「プロジェクトX」もさ、いい話なんだけど。確かに見ると、泣いたりするんだけど。でも結局あれって、偉くならなかったサラリーマンの話なんだよね。

次ページ 勝手に学ばれる父親たち