小田嶋:僕なんかの職業でも、どっちかといえばレアケースだから、自分たちの職業みたいなものを普遍化しちゃいかんという気持ちは、私なんかには、すごくあるんですよ。レアケースというのは、お金的に恵まれているということじゃなくて、要するにただラッキーだった、ということなわけですよ。だから、村上龍の『13歳のハローワーク』は、「みんな村上龍みたいになりたいだろう」って、そういう話としか読めないのね、俺は。

:結構、気持ち悪い話だよね。そうなると。

小田嶋:頭来るね、読んでると。みんな俺みたいに自己表現がしたいんだろう、本当は。俺みたいに自己表現できていないやつは負け組だぜ、っていう話ですよ、あの本は。

:・・・・・・。

コラムニスト 小田嶋隆氏

コラムニスト 小田嶋隆氏

小田嶋:あの本の趣旨は、いかにいい給料をもらっていようと、組織にぶら下がっているやつは負け犬だよ、という感覚、あの村上龍独特の感覚ですよ。まあ、あいつがそう思うのは勝手ですし、あいつみたいな才能があるやつがそれで食えているのは同慶の至りだけど、若いやつにそれを勧めちゃだめでしょう。

:確かに人気のある作家が言っちゃいかんという感じがするな(笑)。小田嶋の場合は同感だけどさ、じゃあ平々凡々たる青年に対してね、何を言えばいいんだろうね。僕の息子は、この前広告がやりたいと言ってきたわけ。それは、俺とか俺の周辺のタグボートのやつらとかしか知らないからだよね。何しろ彼は高校時代に、高校行っていないわけだから。

小田嶋:そういう息子にとって、お父さんの仕事は何かとても楽そうに見える。

:そうなんだよ(笑)。タグボートでバイトしたり、タグボートの野球部に入ったりしてたから。だけどね、親子二代続いてラッキーが待ち受けているということは、まず考えられない(笑)。もう運を使っちゃったと、俺が。だから悪いけど、無理だと思うよ、不運な広告屋というのはつらいもんがあるよ。と、思いとどまった方がいいんじゃないかっていうことを相当言ったんだけどさ、そんなの説得力ないんだよ、全然(笑)。

小田嶋:それはそうだよ。

:そんなの、やってみなきゃ分かんないじゃん、とか言われて。

小田嶋:やってみなきゃ分かんないわけだし、実際。

:まあね。

「気がついたらコラムニスト」って言われたらもう

小田嶋:俺なんかは、目指してなったわけじゃないから、そこがラッキーなところなんだけど。目指してなっちゃった人も、またそれはラッキーかもしれないけど、人間は目指すものになるんじゃなくて、なるものになるんだ、というようなことをね、そっちの方を教えた方がいいと思うよ。俺はこうなるべくして努力してこうなった、ではなくて、気が付いたらこうなっていたんだよ、という話。

:でも、その小田嶋の論理は、例えばコラムニストを目指す若いやつからすれば、もう鼻持ちならない(笑)。

鼻持ちならないでしょうね。

:俺もそうだけど、広告クリエイターになったのは、営業がつらくて逃げただけですよ、なんて言うと、厭味なわけだ。

厭味ですね。

小田嶋:仕事をどうやって次の人に渡すかって、難しいことだね。

:難しいよね。だから、教えるというよりはもう勝手に育ってくれて、ただし、そういう後進の環境整備というのかな、そういうことはやりたいとは思うんです。そうすれば、何か死ねるような気がするというか。わが事だけじゃなくて、自分が何十年か職業に対して割いたエネルギーみたいなものが、未来の誰かの役に立つんだと思い込みたいよね、せめて。

小田嶋:岡のように、こっちを目指したんだけど、あっちに流れ着いて、という外れ方は、CMプランナーの場合はそんなひどいような気はしない。CMプランナーを目指して失敗しましたといっても……。

:それは単に会社の就職試験に落ちただけだから、電通、博報堂の。

小田嶋:例えば小説家やロックミュージシャンを目指して失敗した場合っていうのは、もうセーフティネットがないというか。

今のすぐ辞めちゃう若者は、セーフティネット以前に、やってみたら面白かった、という感覚が希薄な気がします。たぶん、とにかくやってみたら予想外の展開があって、そっちも面白かった、となる前に辞めちゃっている。

小田嶋:僕というか、我々には何か、職業に対して、面白いはずないだろうという感じがそもそもあるわけですよ。うちのおやじなんか、もっとたくさん持っているんですけど。「面白くないから金もらえるんだろう、そんなもん面白くてどうすんだよ」、みたいな感覚というのは昔は当然あったわけで、僕も就職する時はそういう覚悟でしたよ。

 だから、つまらないのは分かっている。だけど、お金になる。稼がなきゃ食えないわけだから就職するわけだ、チクショウ、なんていう感じで就職したわけでしょう。そう思っていれば、そんな簡単には辞めないと思うんです。

パパ社長の会

:あと、あれじゃないの、やっぱり辞められるから辞めるわけだよね。

そういう簡単な見方もできます。

:辞められないのに、辞める人はいないわけで。だから小田嶋が会社を辞めたって聞いた時は、もう何ていうの、「小田嶋終わったな」、みたいなことを思ったもの(笑)。だって当時は辞めたやつなんかいないんだからさ。

小田嶋:でも一応、打診してんだよ、うちに。辞めようと思うんだけど、って電話したのよ。そうしたら、あっそう、じゃあ帰ってこいって。

:だから、お前の親も特別だよね。

小田嶋:そう。結局、親がかりで30歳まではぶらぶらしてたわけだから。

:ある種安定した家族の共同体があるからそういうふうに思えるわけでさ。そうじゃないやつらはそういうことは思えなかったよ。その意味でいうと、今は世の中全体が“辞めていく文化”ということになっている。

小田嶋:昔、原稿に書いたことを思い出したよ。どういう原稿かというと、俺が昔よく通っていたスナックに「三菱商事パパ社長会」というのがあったの。メンバーは三菱商事の社員なんだけど、全員パパが社長だった、という集まりなわけ。

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