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小田嶋:その手の通過儀礼って体育会にもあるし、今のお笑いなんかでも、そうだよね。新人の芸人って、必ず恥ずかしい格好で出てくるでしょう。若い芸人が芸を見せるんじゃなくて、恥を見せるところから出発しなきゃいけないというルールがあったりしているじゃない? あれが本当、よくない影響を与えていると思いますよ。

:そうだよね。今はね、それはやっぱり、明らかにパワーハラスメントだから(笑)。90年代半ばぐらいから、それで本当に会社を辞めたりするやつが出てきた。こんなことされて黙ってられるか、みたいにきちんと反論する東大法学部卒のやつとかが出てきて(笑)。それで確か一応、禁止にはなってるのね、あれはもう。

小田嶋:一応は。

:ただ、やっぱりラグビー部出身のやつらとかは、やっぱりまだ全裸になってるらしいけど、それは自主的にということで(笑)。

自主的に。

:自主的にという名の下で、誰にも命じられていない、脱ぎたいから脱ぐんだと(笑)。何かこうして話してると、ちょっと面白そうだけど、狂ってますよ。何も楽しくないもん。やっぱりそれは、緊張──心が誰とも通じてない集団の中で、そんなバカなことを毎晩しなくちゃいけないっていう苦しみがある。

小田嶋:それは壊れるよ。

:壊れるでしょう。だから、僕は宴席より業務をしてる方が楽しかった。請求書でも伝票書きでも何でも、そっちの方がよかった。

京都、酒と薔薇の日々

小田嶋さんも会社勤めしていたころは、営業だったんですか。

小田嶋:でも俺はね、実質働いていないからね。

さらっと。

小田嶋:俺、新入社員になって、大阪に赴任して4日目に足を折ってね、入院して、4カ月休んでたんです。

:いきなり。

小田嶋:4カ月も本当はかからなかったんだけど。入院したのは大阪で、そこで2週間入院した後、誰も見舞いに来ないし、寂しいから、東京に転院して、そっちでもう2週間入院して、あとは大阪の下宿に戻って、そこを根城に関西観光をしてたんですよ(笑)。そうしたらそれが会社にバレて、小田嶋はいつまでたっても出社してこないけど、どうしたんだっていうことになって。会社の人が実家に電話してみたら、実家のおふくろが、あれ? もうふた月前に大阪に行っていますよって(笑)。

:ははは。

小田嶋:休職手当てをもらいながら、カマカミを連れて、遊んでいたんだよね。あいつがまだ大学3年生だったんだよな、3浪か何かで。

:カマカミ?

小田嶋:カマカミ。3浪2留か何かしてたやつ。

:アイツはどうしようもないな(笑)。

小田嶋:そいつと2人で、今日は神戸、あすは京都ってしていたら、バレちゃったの。それで、すみませんでした、って会社に出て、それから1カ月ぐらい出て辞めちゃったから、ほとんど何もしてない(笑)。

本当に何もしてないですね。

小田嶋:最悪だったです、だから。

:でもお前、宴会で「君が代」を歌ったんだろう。

小田嶋:そうそう、それも最悪だった。宴会があって、新入社員は全員カラオケで歌え、みたいなこと。それはしょうがないんだけど、僕、部長が嫌いだったんですよ。部長ってキリスト教徒でね、賛美歌を歌うようなやつなんですよ。

:・・・・・・。

小田嶋:部長からは賛美歌をかまされて、ほかのやつらからは「再会」とか聞かされて、お前は何だっていうことになる。じゃあ「君が代」しかないかな、と思って、「君が代」を無伴奏でやらせていただきますと言って。

思わず部長さんに同情したくなる

:すごいよ、それ。

小田嶋:特別な歌ですので、全員ご起立くださいって(笑)。

:まあ、辞めてなくてもクビだわな、それはもう(笑)。

岡康道氏と小田嶋隆氏

小田嶋:そうしたら、立たないわけよ、部長が。俺もちょっと酔っぱらってるから意地になって、「1名、お願いしてもご起立されていない方がいらっしゃるんですが、ぜひお願いいたします」とからんで。それで空気がすっかり壊れて、部長が座ったままの中で、俺は「君が代」を最後まで一生懸命歌って。イヤーな空気で(笑)。

:俺、それ聞いた時、驚いたもん。

小田嶋:まあ、でも、辞めるつもりだったからやれた(笑)。この会社で一生やっていこうと思ったらね、やっぱり「いとしのエリー」ぐらいでね、ごまかしていたよね。

(呆然としつつ次回へ続く)

(2007年11月2日公開の記事を再掲載しました。)