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:そうそう。でも、それに対応できるふりをして入社しているし、対応できそうにも見られるし。

見えますね。

:すごく無理すればできないことはないから、一見楽しそうに演技しちゃう。でももう、本当は、ものすごく傷付いていて。ただ、転職という文化もないでしょう、当時は。

そうですよね。

:会社を辞めるなんてあり得なかった。辞めることもできないし、行き詰まったねえ。

小田嶋:クラス対抗のリレーがあるよという時に、俺はアンカーは厭だ、2走(第2走者)なら走るよ、と言っちゃえるところが、こいつの一番のいいところだったわけです(第5回参照)。変に空気を読んで、じゃあ、俺はアンカーで頑張るよって、それでアンカーで走って、1人か2人に抜かれても、惜しかったな、という方がクラスの中では人気者になり得るわけ。でも、そっちじゃなくて、俺は2走でなきゃ嫌だ、と主張して、同時に条件闘争も行うというのがこいつなわけで(笑)。

:そうなんだよ。

小田嶋:一般の人は、条件を言ってくることにびっくりしちゃうわけですよ。えっ? と(笑)。

:でも、実際のクリエイティブというのは、わりとそういう世界だけどね。

ルールの解釈力こそ「クリエイティブ」

小田嶋:そりゃ分かるけど。走ってもいいけど条件があるって、そんな言い方、高校生がするか、普通? というのが一般的でしょう、普通は。

:今まで15秒のCMの最後の3秒が商品カットだったということが暗黙のルールだとしたら、待てよ、でもこれ最初に言っちゃえば、あとの12秒自由ってことか、と(笑)。あるいは、そんなに商品が大事なら、物語の中で商品名を3回言いましょう、と。3回も言うんだから、ストーリーは自由にやらせてくれみたいなこととかね。そういうことを言っても、クリエイティブの人たちは、まあしょうがないよなという目で周囲は見てくれたから、クリエイティブに移ってからは、非常に居心地はよかった。

小田嶋:クラスの中でも、俺は2走なら走るけど、という条件を出してきたりして、岡は一種浮いていたりしたけど、浮いているながらも、1つの、まあ、あいつはあいつだからっていう独自の位置でずっときていたわけですよ。でも、宴会なんていうところに行くと、もう絶対にそれはあり得ないでしょう。

:あり得ないですよ。

小田嶋:エゴとかない世界ですからね。

:ゼロだね。

小田嶋:全員が1つの人格に溶け込んでいくみたいな。

:しかも俺、酒飲まないからシラフじゃない? もう、とんでもないよ(笑)。つらくって、今も夢に見るぐらい。人生で一番つらかったことは何かというと、おやじが倒産して逃げたことじゃなくて、俺、あの営業の5年間だよ、明らかに。思い出したくもないもん。

クリエイティブ、ゼロ

当時の電通の宴会ってどんなことをやっていたんですか。

:宴会? だからまず、飲んでしゃべるだけだったらいいですよね。でも、例えば料亭の場合。

料亭の場合。

:全裸になって、オイルライターのオイルを湿らせたティッシュをおしりに刺すわけです(笑)。

刺します。

:そして、それに火をつけるわけです。

火を点けますね。

:火を点けると、熱いからものすごい速さで人は走るわけです。

熱いから走ります。

:料亭の庭のこっちからあっちまで、ばーっと、こう走り抜けるわけですよ。あっちにはまた別に待機しているやつがいて、こっちに走ってくる。その芸を「ホタル」と呼ぶんです(笑)。

頭、ぶっ壊れてます。

:頭、壊れてるでしょう。それからね、宴会の最中に、ぱっと横を見ると、何も着てないやつがいつの間にか座っている(笑)。その場合は、気付かれないように全裸にならなきゃいけない。まあ、失礼にならないように、ネクタイだけはしてろ、という(笑)。

クライアント側はそういうことはしないんですよね。

:当たり前じゃないですか。こっち側の営業の若いやつから順番にやるしかない。ということは、毎晩全裸だったみたいなヤツもいたね(笑)。

小田嶋:しかし、この大きい体でどんといると、迫力だっただろうね。

:そうだよ。やっぱり大きい方が面白いし、いじめたときに、みんなが楽しいでしょう。