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:小石川って理科系色が強いから、理数系の勉強がめちゃくちゃ難しいんですよ。それでみんな「大学への数学」とかやってて。文系でも。

うわー嫌ですねえ。

:もうね、苦しかったよ、あれは。だからテストも、それほどやさしい問題は出ない。先生も気を使って簡単なのも出してたと小田嶋は言ってたけど、それだって基礎ができてなければ解けない。いつも0点になる恐怖って確かにあったね。

小田嶋:高校1年の時に初めて受けた試験が「じゃあ君たちもまあ、入ったばかりだから、中学の復習を出します」って教師が言う問題で、俺、30点だったんです。すんげえ難しいな、これじゃあ平均50点いってないだろうな、と思ったら「100点発表します」って、30人ぐらい名前がずらずらっと。

本当に嫌な学校ですねえ。

小田嶋:俺はそれで、これはだめだ、と気持ち的に終わっちゃったんです。

:数学に関して。

小田嶋:数学に関してというか、学問全般に関して(笑)。高校生の虚栄心としては、一生懸命頑張って真ん中辺にいるというよりは、一切投げ出して一番下にくっついてる方が、かっこいいじゃないですか。そっちを選んじゃったんです。それに対して、岡はそこそこ各科目で、うまくやっていた。学校というのは、内申取るだけだったら、要領よくやっていれば何とかなったという部分があるけど、そのあたりはちゃんと点数取っていたよね。

ゲームの勝者、宴会で躓く

:内申の点数ね。あれね、効いたんだよ。おやじの会社が倒産した時(第5回『「体育祭」と「自己破産」と「男の子」と』参照)に、大学に奨学金の申請をしに行ったじゃない? その時に、やっぱり高校の成績が参考になるんだ。何が基準かって、高校の成績と入学試験の点数なの。それで、君は優秀だね、じゃあ奨学生ね、ということでセーフ。あれで小田嶋と一緒にひどい点取ってたら、もう(笑)。

小田嶋:じゃあ、無駄にならなかったんだ。

:無駄にならなかった。決して無駄にならなかった。

すごい。

:やっぱりゲームなんだよ。 中間テストも期末テストも。だから、何とかこう、少ない努力で勝つ方法を一生懸命考えてきた。それが効いた。

小田嶋:岡の、わりといろいろなものをぱっとゲーム的に解釈して楽しんじゃうという感覚って、当時の高校生としては珍しいよ。だからね、高校のクラスの中ではね、浮くのよ。あいつはねえ・・・・・・っていう感じが、すごくあったよね(笑)。

:それは、会社(電通)でも浮いてたよ、だから。

小田嶋:会社でも、あいつはねえっていう感じだったのか。

:やっぱり営業の時は、まったく適応できなかった。

小田嶋:昔、四ツ谷の飲み屋で隣り合ったやつに、電通のやつがいたの。電通ですか、電通なら岡康道というのが俺の同級生でいるんですけどって、俺が言ったら、「ああ、あの頭のいいヤツね」って(笑)。その言い方の冷たさで、あ、もしかしたら岡は会社で苦労しているんだろうか、と(笑)。

:それ、いつごろの話?

小田嶋:えーとね、30歳の手前ぐらいかな。

:実際、人間関係としてはうまく適応できなかったね。

岡さんは、いかにも広告代理店に適応しそうな雰囲気ですが。

:クリエイティブの転局試験に受かった後からですよ、僕の会社生活がよくなったのは。ただ、クリエイティブといったって、広告というのはしょせん短い時間でしょう。15秒、30秒を面白く作り上げるというのが僕の身の丈で、小説を書いたり、映画を撮ったりするわけじゃない。だから、京都大学は突破できなかったし(笑)。

京都大学は劇場映画だった、と。

:そうそう、長編劇場映画(笑)。だけど広告とか早稲田とかは、そうじゃないということぐらいは、分かっていましたけどね(笑)。

中間試験クラス。

:そう、中間試験とか。だから、いくら高校時代の成績がよかったとはいったって、その程度の自分という感じはあるよね。

小田嶋:でも岡はやっぱり、やれることはやるんだよね。そこのところで、敗北の美学みたいなところにいかない。普通、高校生って安易にそこへ逃げ込むのよ。しかも、当時はそういう文化がすごく多かったでしょう。「あしたのジョー」にしても何にしても。あるいは「同棲時代」とか。

:そういうのもあったな。

岡青年がつかんだ、日本人の秘密

小田嶋:そうそう。「いいのさ、俺たちなんか」みたいなところ。でも、岡は勝つべき手はちゃんと打っておく。たとえ負けても、捨て石を布石ぐらいにはしておく、と、そのあたりが違う。

:でも何かやっぱり、世の中ってこう、自分が拍手をもって迎えられることがない、というのはあるね。クラスでも会社でも浮いていくというのは、どういうものなんだか。

小田嶋 俺が会社を辞めてぶらぶらしているころに、何かで岡と会った時にね、宴会の話をしきりにしていたよね。俺は日本人の秘密が分かったよ、って。何だ? って俺が聞いたら「宴会だよ」って。要するに、宴会に付いていけないことっていうのが、たぶんこいつが当時、突き当たっていた壁なんでしょう。

:まったく宴会がダメだった。80年代の最初のころの電通の営業というのは、ほぼ毎晩宴会なんだよ。

ホイチョイ(「気まぐれコンセプト」)で書かれているような世界ですか? 陰毛にムースを塗って火をつける、みたいな。