小田嶋:頑張れって言う以上は、価値があると言わなきゃいけないしなあ。
岡:でもね、子供に頑張れと言っても、おやじは別にそんなこと本気で思ってないってことは、やっぱり感じるものがあると思うんだよ、彼ら側にも。
小田嶋:そうそう、だから逃げ場に使ってるね、俺のことを。おふくろに何か言われた時に、でもパパはこう言ってたよ、みたいな。それで結構、えっ、俺、そんなこと言ったっけ? みたいになっちゃうんだけど。ほら、高校時代の数学なんかは全部で9点ぐらいしか取ってないよ、という話があるじゃない(笑)。
岡:それ言ったのか? 子供に。
小田嶋:うん、ふっと何かの時に。
岡:それは息子は覚えてるな、絶対。
その「全部で9点」の全部、って?

コラムニスト 小田嶋隆氏
小田嶋:テストは合計9枚で9点だから、平均1点かな、なーんて(笑)。ばかな話でしょう。それは自分的には単にばかだった、という話なんだけど、子供にとっては、それでも何とかなるもんだという教訓話、というか、生き方の指針として受け止めていたりする(笑)。
岡:生き方の指針ね。
小田嶋:パパは世界史とか、ほとんど授業出てないぞ、みたいな話っていうのも、それでいいんだぞ、というふうに解釈して聞いてるわけだよ。そうじゃないんだけどね。
岡:かみさんは嫌がるだろうな。
小田嶋:そういう話やめて、って言われて。確かに俺、うかつにそういう話してたよな、と思って。
岡:でもある種、そういうめちゃくちゃで本当の話は、やっぱり何かが恵まれていないとできないわけでさ。
それはその通りですね。
岡:ただ普通に、数学1点とか、世界史の授業に出ないとかだったら、しゃれにならないでしょう。我々の時は時代の空気も違っていたしね。だって今だったら、お前、卒業できないよ、9枚で9点だと。3年かかっても無理でしょう。
小田嶋:そう、当時、試験で成績はつけなかった。
岡:補習みたいなのを受けていたんだっけ?
小田嶋:あのね、最後に俺、ウシオ先生に呼ばれてね、「ミワ先生も苦慮しておられるから」と、説得されて。幸い3学期のテスト範囲は「確率」だ。「確率はそれ以前の勉強の流れとは無縁で、独自に勉強すれば点が取れるらしいじゃないか。何とかしてここで点を取れ、何点とはいわないから取ってくれ」と、教師に懇願されて(笑)。
理由なき反抗、に見えただろうなあ
岡:そもそも数学の試験の時、お前は何をしてたの?
小田嶋:だから何も書かないでいた。俺、分からないからさ、白紙で出していたんだけど、それを先生には反抗と見られていたの。先生としてはサービス問題も出しているわけだよね、頭の方に。でも、俺、もう最初からアタマがかーっとなって、2点3点すら取りにいけないわけだよ。
2点、3点すら。
小田嶋:もしかして、もっと真剣に考えれば5点や6点は取れたかもしれないんだけど、見た瞬間に、だめだこれ、っていう感じで、もう完全にスタートラインから外れちゃって。まあゴルフで言う「イップス」だよね。完全に対応不能になる。後は静かに寝て、名前だけ書いて白紙で出してたのよ。
岡:でも50分ぐらいあったでしょう、試験時間って。
小田嶋:だから寝てたんだよ。
岡:また席順っていうのが、あいうえお順になってきて、岡は一番後ろなわけ。で、小田嶋は先生の目の前になっていた(笑)。
小田嶋:3年間ずっと。
岡:僕は座高も高いから、いろいろなことが見渡せた。だって俺、高校時代の成績、平均4.2だもん、5段階評価で。実際の実力は2.4くらいだったけど、テストは強かった。
小田嶋:ちなみにオレは3.0。だからね、北大もまるで無理じゃなかったね、岡は(第4回『「受験」と「恋愛」と「デニーズ」と』参照)。
たとえ「おばさん」を「アリ」としても。
岡:いや、無理だった。
小田嶋:「おばさん」が当たっていたら、案外、間違って入った可能性もあるのよ、岡は。
岡:でもさ、自分でも分かるんだけど、僕の場合は試験の時だけごまかしているだけなんだよ。その時その時での好成績。
小田嶋:まあ、岡本人は北大に少し行く気で、でも、受かんなくてよかったよね、あの時。
9点、取れるものなら取ってみろ、と
岡:よかったのかな、あれで(笑)。受かっていたら、その時点で人生、かなり変わってたよ。
小田嶋:俺は北大を受けた時、数学の微分のこのマークね。
ああ、微分記号ですね(※)。
小田嶋:俺、初めて見たんですよ、あれ(笑)。試験から帰った後に「こういう、ほら、Sの長いやつみたいなのあったじゃない?」と、仲間内で話したら「お前、本当にそれ知らないの??」と言われて。
そうですよ、だって小石川高校なんでしょう?
小田嶋:もう数学は授業も出ていなかったしね。
岡:だてに9点じゃないんですよ。
小田嶋:うん、だてに9点じゃない。
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