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 本記事は2007年11 月2日に「日経ビジネスオンライン」の「人生の諸問題」に掲載されたものです。語り手の岡 康道さんが2020年7月31日にお亡くなりになり、追悼の意を込めて、再掲載させていただきました。謹んでご冥福をお祈りいたします。

(日経ビジネス電子版編集部)

前回から読む)

:この間、息子から就職の相談を受けたの。でも、自分がどうだったかというとさ、結局、成り行きでしかないじゃない?

小田嶋:そうだね。

:だから、真剣に進路ということを相談された時に、返す言葉なんかないんだよ。時代としてないのか、俺がないのか分からないんだけど。

小田嶋:岡は、(就職は)大人たちとのゲームになるから、勝った方がいいだろう、というふうにして取り組んできたわけだろう。これまでの話からすると。

:その通りなんだけど、僕の息子のように、ゲーム感覚なんて、そんなことにあまり興味がないやつら――そういう健全な青年たちも世の中にはたくさんいて、勝ち負けって何? みたいなことを言われると、もう何もない。

小田嶋:そうだよね。

親の自分とただの自分と

:僕らの前の世代というのは、「自分」という文脈というのかな、例えば戦前だったら「国」になるんだろうけど、「家族」でもいいな。そう、一家とか家族とか、そういうもののために、こういうように生きる、そして自分もその中でこそ幸せだ、みたいな大きな文脈が自分以外のところにあって、そこで今何をすべきかという話が作れたんだけど、俺たちの世代になってからは、もう、そういうものはなくなったでしょ。

小田嶋:なかったね。

:そういうものがないと、受験にしても就職にしても、結局、そのゲームが面白いから勝ってやる、ということ以外に、僕の場合は自分を突き動かすものがなかったと思う。でも、少なくとも、僕はそれがあったから面白かった。だから、それ以外にどうやってみんな頑張るんだろうと。これを今日ね、話そうと思っていたんだよ。

小田嶋:ああ、そうね。でも、岡のゲーム感覚は他人に適用できる話じゃないよね。

クリエイティブディレクター 岡 康道氏

クリエイティブディレクター 岡 康道氏 (写真:大槻 純一、撮影協力「杏奴」※当時は東京都豊島区のお店でしたが、現在はリンク先に移転されています)

:そう思うよ。息子に、お前そう感じないのか? と聞くことも意味がないぐらい違う人間なわけだし、そもそも息子はそんなふうにゲーム感覚で生きていない。

小田嶋:対息子ということについて言うとね、俺はひとりの人間として思うことと、親という立場が言わせる発言ってあるでしょ。それがいつも、常に矛盾しているわけよ。

:だろう?

小田嶋:そんなのやるべきことじゃねえよとか、知ったこっちゃないさ、っていうのが個人的にはあるわけだけど、親がそれ言っちゃっていいのかなという思いはある。

:それに関して言えばね、俺はずっと一個人として接しているわけ。だって両方言うと、子供、混乱しちゃわない?

小田嶋:混乱してるけどね(笑)。

:そうだろう。

小田嶋:「そういう宿題はね、無視すればいいと思うけど、でも無視すると厄介なことになると思うよ」とか、そういう話をしてる(笑)。

嫁さんにも、ごめんなさい

:でもさ、母親っていうのは、当然のように親としての発言をせざるを得ないわけだよ。そうすると、お父さんは「まあお母さんが言うことの方に一理あるんだけどさ」と、及び腰になっちゃう。卑怯者ということなんだけど(笑)。

小田嶋:うちもやっぱり、最終的には嫁さんがすごい建て前論を言っているよ。絵に描いたようなことを。で、俺が「いや、でも、お母さんはああ言うけどね」なんて、子供にとっての空気穴みたいなことになるでしょう。そうすると、嫁さんはすごい怒るわけ。

:ま、それは怒るよ。

小田嶋:私がせっかくここまで言ったことの、その前提をどうする気だ、絨緞ごとひっぱってテーブルをずらすみたいなことを言うな、って(笑)。

:だけど父親と母親が違うことを言うと、子供としても混乱するんじゃないかな、とは思う。でも、仕方ないよ。他に手法はない。実際、息子は、高校を中退してしまったからね(笑)。学校を辞めた時も、あれっ、お父さんは会社を辞めて、離婚もしたよね、何で僕が高校辞めたらいけないの? ということになって……。

至極もっともなことを。

:それでもう、何か、ぐうの音も出なかった(笑)。だから、それがいい教育法かどうか分からないけど、でも、自分が建前を言うっていうのはかなり変なことじゃないかって。

小田嶋:俺の中では、まっとうな人間に育ってほしいという前提からくるアドバイスの仕方と、せっかくコースに乗っているんだから道を外れないでくれよという時のアドバイスの仕方は、結構ずれてくるわけよ。

:お前はそうだろうな。

小田嶋:だからそこのところで、結局、俺の中の問題だよね。「まあ、コースなんか外れてもいいから、お前の好きなように生きろ」と、そこまで言う度胸があるのか。「あのさ、結局人間なんてくだらんものだから、コースに乗っとくもんだぞ」というふうに言うのか(笑)。

適応のため努力は短いほどいい

:小田嶋の場合、小田嶋の本音というのは、非常に危険なわけだ。だって、どうせ死ぬんだからさ、に近いような(笑)。俺の場合の本音というのは、そんなにデンジャラスじゃないんだよ。いいんだよ、ルールなんて。取りあえず勝てばいいんだから、みたいなことだから。

日々の努力なんていらないよ、と。

:でも、絶対に90点は取れよ、というようなことでしょう(笑)。そのために必要なのは3日間死ぬ気での詰め込みだ、みたいなことなわけだよね。だけど小田嶋の本当に思っていることというのは、僕よりも反社会的だし、アナーキーだから。

小田嶋:反社会的ではないけどね。

:反社会的じゃないけど、でも社会的じゃないよね(笑)。俺のは社会的なんだよ。だって最終的には、激しく適応しなければつまらないことになるぞ、ということだから。

小田嶋:でもね、俺、子供には言えないよ。学歴なんか価値はないけど頑張れとか、そんなこと言えないでしょう。

:それは言えないな(笑)。で、実際には小田嶋はどうしてるの?