小田嶋:もう50歳になってくると難しいんだよね。自分より年上の人だったら全然認めるんだよ。藤沢周平とか、外国人ね。外国人の素晴らしい作家はもろ手を挙げて認めるけど、若いやつで文章がうまいやつは、ちょっと不愉快なんです。町田康だとか、こいつ面白いなと思ってちゃんと認めているんですけど、ちょっと不愉快なんだよね。
岡:でも、これからウェブというのはどうなるのかね。どんどんみんながいろいろな文章を書き続けるのかな。
小田嶋:それはもうしょうがないでしょう、ああいうものができちゃった以上。ただ、現在みんなが無料で垂れ流している文章を、どこかの天才が換金というか、集金する方法を見つけることが、すごいエポックになるだろう、とは思うけど。
書いていただいて、お金もいただく商売
出版界の人間から言わせていただくと、究極の自費出版みたいなビジネスが出てくるんだろうなという感じが何となくするんです。すなわち人に書かせて、その書いているやつから金を取る、みたいなことがクローズアップされる。
岡:書いているやつから金を取る!?
たとえば岡さんが、自分でお金を払って広告をするとか。今の段階ではあり得ない話だけれども、そういう仕組みを考える人が出てくるかもしれない。
小田嶋:トム・ソーヤーがペンキ塗りをレジャーにあれした話とか、今どきのエコツアーとか。夏休みにフランスに行って、納屋で寝泊まりしながら、草むしりをして、ブドウの収穫を手伝って。それを金を払ってやるツアーが人気だそうだからね。

岡:お金を払って労働するのか。
小田嶋:そう。
岡:で、収穫の手伝いをさせてもらうのか。
小田嶋:わざわざ飛行機で飛んでいって。アメリカなんかから、わんさか人が来ているって。
岡:すごいことになっているね。
小田嶋:フランス人は性格悪いね。でも、フランス人って、そういうところが格好いい。フランス人がアメリカ人をだます話って大好きだな、僕。
でも、日本人も喜びそうだな、と。
小田嶋:京都の町家の掃除とかをやらせたら喜んで行くやつがいるんじゃない?
岡:うーん、町家の掃除。
小田嶋:京都人はフランス人に似ている。内心、相手をすごくばかにしながらね。
たとえば音楽業界には、著作権団体のJASRACがありますよね。音楽だって文章と同じく、無限に流通させられる。でも、JASRACは、そこからちゃんと権利金をせしめていますね。
小田嶋:ウェブ上で歌詞とかを引用して、目立っているとGメンがメールをよこすらしいよ。
JASRACは巨額を投じて、検索システムを作ったんですよね。
小田嶋:この間、地方紙が新聞紙面で展開した連載記事をウェブに載せ換えようとしたんだけど、その新聞記事の中で、歌詞の引用があったんですよ。こういう学校で、この歌が歌われていて、こうなんだよ、みたいな話なんだけど。で、その歌について新聞紙面では、これは何部刷るのでいくら、とJASRACにお金を払ったらしいんです。ただ、それをウェブに載せるよという話になった時に、どうすればいいんですかという事態になって。
JASRAC側は「そのウェブの画面は印刷可能でしょうか」という質問をしてくるんだって。そんなの、可能に決まっているじゃない。そうすると閲覧数×何とか×何とかで、何かすごい試算をしてきた。地方紙側は、冗談じゃないということで、結局その歌を載せないことになったんです。でも、そうすると記事自体が成り立たない。結局、その回は休載して処理したというんだけど、ひどい話です。
岡:何だか、めちゃくちゃな話だね。
小田嶋:この先、そういうめちゃくちゃがそうそう長く続くはずもないから、どこか落ち着きどころがあるんだと思うけど、JASRACのあの商売と、我々が文章を書いていくということは、実はどこか通底するものがあるはずで。
グーテンベルク以前の時代に戻る
岡:どんなところかなあ。
小田嶋:もしかしたら我々は、グーテンベルク以前のところに戻ろうとしているのかもしれない。誰かが書いたものからお金が発生したのは、それを大量に印刷してからでしょ。つまりそれはグーテンベルクのおかげで、それ以前は、物を書いた人たちは名誉は得たかもしれないけど、お金は得られなかったわけだよ。
それが今、ウェブのおかげで、ボランティアみたいなやつらが、本を全部ウェブに載っけるみたいなことをするようになったでしょう。そうなってくると、もう印刷・出版の意味はなくなっちゃって、逆説的にだけど、グーテンベルク以前に戻っているわけじゃない。
岡:小田嶋のように、コラムニストとして文章を書いて生計を立てる人間がどんどん希少になっていってしまうよね。
小田嶋:違う換金方法を我々も考えなきゃいけないと思うんだけどね。著作者で圧力団体をつくって、みかじめ料を取るとかね(笑)。ま、何か換金方法は誰かどこかの先生が発明すると思って、俺は楽観しているんだけど。
ただ、それはJASRACとは似て非なるものでしょうね。海の向こうでビジネスになったのはiPod的な世界ですよね、音楽でいうと。
小田嶋:物を読む人間、あるいは音楽を聞く人間は、中間団体のレコード会社だとか、JASRACだとかは別として、著者だったり、制作者だったりに投げ銭をちょっとでも投げようかという気持ちはあるはずなんです。私なんかでも、いろいろな音楽を全部タダで聞こうとは思っていない。払う気持ちはあるわけです。
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