「日経ビジネス電子版」の人気連載コラムニスト、小田嶋隆さんと、高校時代の級友、故・岡康道さん、そして清野由美さんの掛け合いによる連載「人生の諸問題」。「もう一度読みたい」とのリクエストにお応えしまして、第1回から掲載いたします。初出は以下のお知らせにございます。(以下は2021年の、最初の再掲載時のお知らせです。岡さんへの追悼記事も、ぜひお読みください)
本記事は2009年9月4日に「日経ビジネスオンライン」の「人生の諸問題」に掲載されたものです。語り手の岡 康道さんが2020年7月31日にお亡くなりになり、追悼の意を込めて、再掲載させていただきました。謹んでご冥福をお祈りいたします。
(日経ビジネス電子版編集部)
岡さんはアメフトの試合に勝ったんですよね。
岡:勝ちましたね。
一同:おめでとうございます。
※ここで解説をちょっと。2009年6月某日、岡康道がクォーターバックを務めるアメリカン・フットボールのシニアチーム「U59(アンダーフィフティナイナーズ)」が、結成後、初めての試合を行い、12対6で勝利した。(写真:大槻 純一、以下同)



小田嶋:どこを相手にしたの?

岡:「江戸川フットボール連盟」という、老舗のプライベートリーグがあるんだよ。そこは正式加盟が8チーム、それとは別に8チームが準加盟のようになっていて、とにかく傘下に16チームある。
そのリーグが、僕らの対戦相手として30歳代の選手と、引退して1、2年とか2、3年とかの、まだ動けるメンバーを集めて、簡単に言うと“オールド・オールスターズ”みたいなチームを作ってくれたんです。
小田嶋:あの試合の日って、朝からすごい雨だったでしょう。俺はね、同じマンションの1階にあるコンビニに行くのも嫌で。
岡:すごい雨だった。
そこまでしてグランドに立ちたいか
小田嶋:さすがにこれほどひどい雨だと、やっていないんじゃないかと思ったけどね。何しろ高齢のチームだから。
岡:いや、中止はあり得ない。これが雪なら中止だよ。なぜ雪で中止になるかというと、ラインが見えなくなるから。でも、ラインが見える限りは、どんな天候でもやる。
なぜそういうルールなんですか。
岡:なぜ、と言われても・・・・・・。だって屋外スポーツなんだから、どんな天候だろうとやると、そういうことですよ。
小田嶋:サッカーもそうだよね。
岡:そうですよ。ラグビーだってやる。基本的には全部やる。
小田嶋:野球以外はみんなやりますね。

岡:っていうかさ、ドラマチックなんだよね、雨って。あの日は土砂降りで、もうグラウンドがけぶっていてさ。
小田嶋:アドレナリンが出るでしょう。
岡:出る、出る。だって、最初から泣いているやつがいた(笑)。おい、まだ始まっていないよ、って。彼は、42歳。
小田嶋:・・・・・・。
岡:そいつはね、またそれなりのドラマがあるんだよ。体重が105キロぐらいあるやつなんだけど、現役時代はケガに泣いて1試合も出たことがなかったんだ。それでその思いをひきずったまま20年たって、ついに先発出場する日が来た、と。
木曜日から仕事が手に付かない
小田嶋:「ビックコミックオリジナル」に出てきそうな話だな。
岡:そいつだけじゃないよ。僕たちは同じメンバーで週に1回の練習を1年半も積み、2度も合宿を組み(笑)。その試合の日が日曜日でしょう。木曜日の練習のときから、もうチームは緊張状態に入っているんだよ(笑)。みんな普段の仕事では、まずいな、という事態ぐらいはあるけれど、緊張はしなくなっちゃっているわけです。それが、今、俺は緊張している、って感じになって、木曜日ぐらいから、地に足が着いていなくなっているんだよ。

小田嶋:それで、いい具合に土砂降りになって。
岡:試合には勝ったんだけど、相手をしてくれた30代のチームが、平均年齢46歳の俺たちをまったくなめていた、ということが、まず僕たちの根本的な勝因だったと思いますね。こっちは試合の立ち上がりに2本、タッチダウンを連取したわけ。
小田嶋:お、すごい。
岡:それで向こうは俄然、本気になったんだけど、やっぱり試合の流れというものがある。その後、僕たちはずーっと押されて、ただただ耐えたんだけど。相手方にタッチダウンを1本取られて、さらに追い詰められたんだけど、まあ、届かなかったんですね。向こうは僕らより10歳若いけれど、急造チームだから、それほどタイミングが合うわけじゃないでしょう。
小田嶋:チームワークが醸成されていないというやつだな。
岡:そもそもオールスターズって、そういうもんじゃない? 一方で、僕らは歳は取っているかもしれないけど、この1年半、この日のために、と思い続けて、ひたすら練習を続けてきた、と(笑)。
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