:だって高木は前年に3割打ったのに、球団はダウンした年俸額を提示したんだよ。それで調停になって、ちょっとアップになったんだよね。

高木:自分が希望を出していた額と、球団が提示した額の中間を取ったんですね。

瞬間的には高木さんの勝ちということなんですか。

:そうですよ。でも、そのことによって、球団はアップしなくちゃいけない人間に、ダウン提示をした、ということが公になった。まあ、メンツをつぶされた、ということになったんだよね。だから、高木が年俸調停で勝ったとき、すでに高木放出というのは決められた、というか。

制度に則った権利を使ったのに?

「年俸調停」自体がありえない話だった・・・

高木:制度はありますけど、やっぱりスポーツの世界って、筋書き通りのイメージで運営してきたいんですよね。通常の年俸交渉にしても、1発でサインするというのが、球団にとっては美徳みたいな感じなわけです。そこで選手が保留する、ということ自体が、当時はあり得ない空気でしたから、年俸調停に行くなんていうのは、もうとんでもない話でね。

:でも、その高木選手の姿を見て、同世代の僕らは、こいつは頑張っているな、という感情を持ちましたよ。そう感じたのは僕だけじゃないと思います。

高木:金の問題ではなくて、プライドの問題もありましたけど。やはりプロである以上、評価は金でされますよね。例えば年俸がプロ野球界で1位の人は、価値が1位ということです。その価値を上げるために、僕らは一生懸命、頑張っているわけですから。

そのようなご経験は、子育てにも反映されるのでしょうか。息子さんがサッカーの試合で、終盤の4点目を味方にパスしたら、高木さんが激怒された、というエピソードが、この連載でも出てきたのですが(「O氏の電通入社試験突破作戦」)。

高木:激怒はしてないですけどね。ただ、息子はプロになりたい、と。プロになりたいのなら、ある程度ショーマンシップがないといけないと思うんですよね。

:ただ勝つだけじゃダメなんだ。

高木:サッカーというゲームは、3対0で後半残り5分という場合、どうやっても負けるはずがないんですよね。野球のように満塁ホームランがあるわけじゃないし。息子はそこで、ゴールに向かって球を持っていったんです。それで、敵のディフェンダーが来たときに、別のフォワードにパスを出して、その子が4点目を得点した。これ、1対0とか0対0のときは素晴らしいパスですよ。でも、残り5分で3対0なら、ディフェンダーをかわして点を取ることが、スターへの道じゃないのか、と僕は言ったんです。

:普通の父親としては、これは思い付かないよ。よくパスを出した、とつい褒めちゃうもんね。

高木:そうかな。だって見ていてつまらなかったですから。ただ、僕が例えばチームで4番を打つホームランバッターで、いろいろ脚光を浴びていたんだったら、そういう言い方はしなかったかもしれないですね。

終身打率2割9分、でも脇役

オールスターに8回出場やMVP、盗塁王など、高木さんは脚光を浴びておられましたよね。

高木:加藤(博一)さん、屋舗(要)さんと一緒に「スーパーカートリオ」というあだ名が付いて、そこでクローズアップされはしましたけれど、やっぱり僕らは脇役でしたね。脇役といっても、それがプロとしての僕の存在価値だったし、食うことでもあったから、名脇役には徹しようと思いましたよ。だけど息子たちには、まだ可能性があるじゃないですか。それは意識をしないと、できないことなんです。

:高木は終身打率が確か2割9分7厘か6厘か、そのぐらいだったよね。14年やって2割9分打てる選手はそういないわけで。しかも足が速くて1、2番で、守備がいいという。守備はチームで一番だったんじゃないかな。ゴールデングラブ賞も取ったよね。

高木:あれは1回しか取っていない。

:その後、連続守備機会無失策で日本記録を作った年に、なぜか受賞しなかった。

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