内田:僕はしなかったですけど、そういう会は開かれていましたよ。
先生の高校は、小石川高校のライバル、日比谷高校で。
内田:僕は黙読派でしたけど、それはもう、その手のものは端から順番にやっつけました。内容に関する理解なんて問題外。最後まで読んだ、じゃあ次、という具合にバッテンを付けながら一歩ずつ制覇していくという。
登山みたいですね。
内田:だけど、そこはやっぱりやっておくもので、そうやって何十冊か読んでいくと、1個、分かるんですよね。
何が分かるんですか。
内田:誰も分かっちゃいない、ってことが。
小田嶋:なるほど。
分からなくても、分かっているふりをしている奴は、分かる
内田:僕自身、マルクスを読んでいて意味がまったく分からなくても、でも周りのやつらも実はまったく分かってないんだ、と。そう思いながら、マルクスの言葉を使ってしゃべると、みんなが、「うん」って言うな、ということが分かったよ(笑)。
小田嶋:アカデミズム界的には墓穴を掘る言葉ですね(笑)。内田先生からご覧になって、この人は分かっている、という人はいるんですか。
内田:分かってない、ということが分かってくると、分かっている人の書いたものというのが際立ってきます。この人、分かっている、というのは、吉本隆明とか、埴谷雄高とか、丸山眞男とか、こういう人たちは分かってるな、って。
小田嶋:やっぱりそこら辺ですかね。
内田:やっぱりそこら辺ですよね。真に頭がいい人というのは世の中にいるんだな、というので。
小田嶋:逆に言うと、そんなにいない、と。
内田:そんなにいないですね。特に現場でワーワーやっているやつは、誰も分かっていないね。小田嶋さんは吉本隆明なんかはお読みになった?
小田嶋:大して読まなかったです。そこら辺は早々と挫折して、遮断しちゃいました。アタマの容量が限られているから、あんまりいろいろなところに手を出すと、ろくなことにならないぞ、と。
巨大な遊休地を「映画秘宝」で埋める
代わりに何をやっていたんですか。

小田嶋:ロックミュージックの歌詞の翻訳を仕事にしていたり。
内田:そうそう、ハイカルチャーでくじけると、必ずサブカルチャーに行くんですよ。
小田嶋:俺たちの後の世代は、西武のシネ・ヴィヴァンみたいなところが登場して、スノッブにカルチャーを語る風にもなっていって。でも、人生から映画を省くだけで、ずいぶん遊休地が広がるんだよ。
内田:遊休地という言い方か。僕、毎日見ているからね、映画。1日1本、「映画秘宝」でチェックして(笑)。
小田嶋:よりにもよって(笑)。
内田:「映画秘宝」のお薦め映画はほとんど網羅的に見ていますからね。「アナコンダ4」とかね(笑)。本当にくだらねえな、見るんじゃなかったな、と思いながら「1」から「4」まで見ちゃった、俺。
小田嶋:俺、あれは自分の分野の映画だな、と思った。
イグアナの元飼い主として、ということですね。
小田嶋:すごくひどい映画ですね。爬虫類キーパーズからすると許せないよ。事実誤認も甚だしい。「Discovery Channel」でアナコンダを追いかけたやつの方が全然面白かったですよ。
内田:ありましたね。
小田嶋:彼らは湿地帯の下にいるわけ。それを人間が棒でつつきながら探して歩いて行くんだけど。いたいた、って追いかけると、6メートルくらいあるアナコンダは、逃げるために身軽にしなきゃいけないから、今、食っていたものを吐き出すわけです。それで、ちょうど消化途中だった2メートル強のイグアナをぺっと吐き出して。
内田:アナコンダがイグアナを食っているんだ。
小田嶋:その半消化されたイグアナの絵というのは、これはすごかった。
内田:形のまま飲むから・・・・・・。
小田嶋:だからやっぱりアナコンダというのは、なかなかすごい生き物だなと。
さっきまで、文章の構造について話をされていませんでしたか?
小田嶋:そうだ、せっかくいい話が出たのにね。
内田:いつの間にか、アナコンダの食生活の話になって。
ディスプレーで読む人のための文体はあるか
内田先生におうかがいしたいのですが、インターネットが出てきてから、日本語の文体というものは変わったでしょうか。
内田:変わったということは、ありますね。不特定多数の読者で、本を読む人に比べて、ディスプレーで見る人って、明らかに気ぜわしいんですよ。たぶんそこに割く時間、集中力みたいなものに関しては、かなり初めから手控えているところがあるんですね。
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