小田嶋:これはやってみて気が付いたことなんだけど、ネタみたいなものは書くと減るみたいに思いがちだけど、そんなことはない。むしろ書かないでいると、枯渇する井戸みたいなものでさ。

:汲み続けた方がいいんだ。

小田嶋:そういうところがちょっとあるね。たとえば3年に1行も書かないとすると、おそらく書けない。ピッチャーじゃないけど、中4日あけて投げていないとだめ。まあ、毎日投げたら肩を壊すけど。

:出し惜しみはあんまり考えないんだ。

設計図を引くか、意匠にこだわるか

小田嶋:ウェブで料金タダのものをばしゃばしゃ書くでしょう。たとえばAということについてだらだらと書くと、そこに書けなかった、漏れたものというのは必ず出てくる。文章ってシーケンシャルで、一本道のものじゃない。ある論理の流れで書きはするんだけど、そこに枝葉で付いていることもたくさんあるんだよ。その中から、ここのやつを来週の何とかに持っていこうとかということは、逆に発生したりして。多作な人たちはそれをすごくやるよね。

岡さんはオープンの場所で書いておられますか?

:タグボートが雑誌の立ち読みというポータルサイトを立ち上げて、これがまったく儲からなくて、何のためにやっているのかも、もはや分からないんだけど、そこに必死に連載しています。でも毎週は書けないんだよね。

小田嶋:書けないの?

:毎週2000字が書けない。せめて2週間に1回は書こうと思っているんだけど。

小田嶋:岡はやっぱり企画を立ち上げるというか、何か枠組みを持ってくるタイプなんだよ。俺なんかは大枠の設計図をあんまり作っていないんだけど、岡あたりはそれをちゃんと作っていて、ここにこのキャラを立てると面白いよねとか、変なことを考えているんだよね。とんでもない、例えば京都に金閣みたいなものを造るんだ、というようなことをお前は考えている。俺はそういうところで、変な麿の彫刻か何かを作っている、というような方向なんだ。あんまり枠の大きいことは考えられない。

:確かに、僕はディテイルの興味というのは何に対してもあんまりないな。それはだからコンプレックスでもあるんだけど、しょうがないんだよね。だけどプロデュース的なことが楽しいかというと、そんなことでもないんだ。そういうのはもっとうまい人がいるし、もっとタフな人じゃないとできない。だからその間ぐらいの広告なんていうのは、非常に向いているわけだよね。言っていいのか分からないけど、だって細かいところはディレクターがいて、カメラマンがいて、編集マンがいてくれるから、僕はこんな感じがいいんじゃないか、までのところを言っていれば日々が終わっていく。

広告って、ものすごく微に入り細に渡って考えるものだと思っていたんですけど。

:そういう人もいますけど、でも、そういう人はたくさん作れなくなっちゃいますからね。あと長くもっているやつというのは、それほどディテイルにいかないやつです。とにかく僕はだいたいのことが決まったら次に興味が移っちゃうんですよね。

小田嶋:現場はそれでだいたい回るんだ。

:だから、ディティルについて言えば、現場への興味というのもあんまりないんです。たとえば現場に行かなくなると、あの人はクリエイティブじゃないと言われちゃうから、今日も二つのスタジオに立ち会っていたんだけど、そこで何か言うというようなものでもないし、もう相応の専門家がいるわけだから、専門家に任せればいいわけで、僕は本当は次のクライアントのことを考えていたいんです。

広告の手順・論理はゲームに過ぎない

小田嶋:お前は現場で、アドリブでがたがたやっているの? それとも頭の中でがしゃっとある程度を作ってやっているの?

:もちろん広告の場合はクライアントに事前に了解を取る必要があるから、一つの単語でも、フレーズでも、言葉に関しては全部決めている。でも絵に関しては、僕はかなりアバウト。それはもうその場で。

岡康道氏と小田嶋隆氏

小田嶋:俺は広告なんかちょっと見当もつかないけど、文章の仕事は適当に引き受けて、はい、分かりましたと打ち合わせをして、書くときは全然違うわけですよ。

:おいおい。

小田嶋:こんなので行きましょうと言われて、はい、と答えるけれど、打ち合わせは全然気持ちの問題で、要するに雑誌の枠さえ取っちゃえばこっちのもので、書くことはまったく違う。広告の仕事って事前にプレゼンをやったりとか、すごくいろいろあるでしょう。この枠でこうでといって、外堀を埋められていく中で、どうやって物を作るんだろうというのは、ちょっと不思議なんです。

:だから、なるべく約束事を少なくするということだよね、基本は。お金を出すクライアントとの約束事というのは極力少なくして、どんなに自分でいろいろ決めていても、それを全部言うことはなく、大まかなところで握っておく。そんな状態で撮影になった時は、大体うまくいきます。

小田嶋:大事なのは最終的な結果に持ち込むことなのか、それともその前の説得する段階なのか。どっちなの?

:広告って、受け手は結局、好き嫌いで見ているんだけど、お金を出す方はそんなことじゃなくて、この商品のこういうところを、こんな気持ちで伝えてくれという論理があるわけ。でも人は、本当は論理じゃないところで、その広告が好きだったり、その広告で表現される商品のことが気に入ったり、気に入らなかったりするんだよね。

小田嶋:ただ、プレゼンでは論理がないとだめでしょう。

:そう、会議で流通しているのはロジックだからね。しかしだね、これを見ていると何となく好きになっちゃうな、というものを作ることが広告の本当のゴールなわけだから、その前のいろいろな手順というのは、実は全部ゲームなんだよね。そのゲームをクライアントに分かってもらえた時は強いね。

小田嶋:分かってくれるものなの?

:何年か付き合っていると、中には「岡さん、そういって本気に言っていないでしょうと」(笑)。だから始めてお付き合いするクライアントとかはなかなか難しいよね。

(つづく)

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