都会で働く会社員の間で、鬱病や心身症、神経症など“心の病”を患う人が増えている。ある公式統計によれば、仕事に対し「強い不安、悩み、ストレスがある」と感じている人は全体の6割強。デフレ不況下で進んだ人員削減や新事業進出などにより、多くの職場で労働強化が加速したことが背景にあると思われる。いつ終わるともしれない膨大な仕事を前に、「もう疲れた。海辺の町でのんびり暮らしたい」とふと思ったことのある人も少なくないのではないだろうか。

 だが、長年暮らし慣れた生活環境を変えることは、それはそれでリスクを伴う。「田舎暮らしブーム」に乗って転居したものの、適応できず都会に舞い戻ってくる人も存在する。千葉県館山市への移住支援を手がけるNPO法人代表に、いよいよの際、都会の会社員が田舎暮らしをするうえで必要な心構えを聞いた。

(聞き手は鈴木信行)

八代 健正(やしろ・たけまさ)氏
1968年、千葉県生まれ。中学の時に館山に移住し、高校から拓大紅陵で野球に打ち込む。同級に元東京ヤクルトスワローズの俊足強打の一番打者、飯田哲也氏。学校を卒業後、ニュージーランドで暮らしマオリ族との親交も。帰国後、旅館経営などを経て2008年からおせっ会の代表に就任(写真:清水盟貴)

まずはNPO法人の活動内容を教えてください。

八代:千葉県館山市への移住支援を手がけています。館山市に興味がある人への移住に関するよろず相談が活動の柱で、移住体感ツアーやホームページなどでの情報発信も展開しています。2008年に館山商工会議所青年部50周年事業として出発し、翌2009年にNPO法人格を取得しました。

東京などから館山市に移住する人は増えているのですか。

八代:会の発足以来、移住相談は500件を超え、約120世帯、およそ300人の方の移住を支援しました。今年度に入ってからも既に19組、39人が館山での暮らしを始めています。おせっ会を経由しないで移住されている方もいますから、実際には、同じ期間でこの3倍は館山に移り住んでいるはずです。

どのような方が移住されているのでしょう。

八代:30~40代の子育て世帯が中心です。60歳以上のリタイヤ組もいますが、働き盛りの移住が一番多い。アクティブな方が多くて、館山で仕事を見つけ、地域活動などにも積極的に参加されている。お祭りなどでは地元の人のリーダー格になっている人もいます。

なるほど。逆にこんな方はいませんか。「都会暮らしに疲れ果て、海辺の町でのんびり暮らしたい。もうあんまり働きたくない。蓄えを取り崩して、読書したり散歩したりして、ストレスフリーな毎日を送ろう」みたいな方は? 

八代:昔はそういう方もいましたけど、最近は減ったように思います。

でも一定の貯蓄があれば、原理的には可能ですよね。

八代:可能かもしれませんが、あまりお勧めできません。

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