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 脳の前頭前皮質は、成熟するのが大変遅いのです。前頭前皮質は行動を制御し、意思決定をつかさどる部分です。青少年はここが未成熟でかつ情報不足だから、分別を持った意思決定ができないのです。一方で発達が遅いゆえに変化の途上にあることから、(青少年に対して)何らかの働きかけをして変化を促すことも可能で、これは今後私が研究を進めていこうと思っているテーマでもあります。

ヘックマン教授ご自身はどのような実験をしたのですか。

ヘックマン:子供に課題を与えて、毎日来させて、計画・実行させ、最後に仲間と一緒に復習をさせる実験をしました。1日2、3時間、小学生に対して2年間毎日実施しました。追跡調査の結果、この経験がその後の人生において大きなスキル向上につながっていたことが分かりました。ということは、課題を与えて、計画して実行し、友達と一緒に復習することを親がきちんと教えられれば、親と子の関係や付き合い方すらも変わるかもしれませんね。親は大体20代まで子供のそばにい続ける存在ですから、与える影響が大きいです。親も意識を変える必要もあります。

質の良い保育所の整備が社会に安定をもたらす

日本では共働きが増えており、子供たちに毎日しっかり働きかけをするのが時間的に困難な場合もあります。どうすればよいでしょうか。

ヘックマン:親自身が働いていたりして思うように時間を割けなければ、できる限り時間を割きながらも、部分的に何らかの「助っ人」を頼んで、時間不足を補えばいいのです。かえって親の力量では与えられないような刺激を与えることにもなり、それは本人にも、社会にも良いことでしょう。お金は根本的な問題ではありません。子供と向き合わず孤立させるような育て方をしたために、育児に失敗したお金持ちの親は大勢います。

 ご紹介した実験のように、幼児期の丁寧な教育によって、犯罪を減らし、その子たちの人生を前向きにする可能性があります。よりスキルアップした彼らの稼いだお金は、税収になって将来政府に戻ってきます。またこれまでご紹介したような教育効果により、自分の健康にもより気を付けるようになるので、医療費を削減することにつながり、自己抑制する力や良心を育て、社会に安定をもたらします。

 日本政府だけでなく、世界中の国で、幼児期の保育を担う保育所の質を高めることが今後の社会のためにも大変重要ですね。幼児教育は経済成長を促進するだけでなく、回り回って政府の負担も軽減することになるわけですから。

 (この記事は日経ビジネスオンラインに、2014年11月17日に掲載したものを再編集して転載したものです。記事中の肩書きやデータは記事公開日当時のものです。)