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 本連載では、昨年(2013年)まで米ビジネススクールで助教授を務めていた筆者が、世界の経営学の知見を紹介して行きます。

 さて最近は、リーダーシップにおける「ビジョン」の重要性に、注目が集まっています。ビジョンとは「その企業が何を目指しているのか」の将来像を示すことです。「優れたリーダーには、優れたビジョンが重要」とは、よく言われるところでしょう。

そもそも「良いビジョン」ってなんだ?

 他方で、「では優れたビジョンはどういうものか」と聞かれると、答えに窮する方が多いのではないでしょうか。なんとなくの感覚はあるかもしれませんが、「これが優れたビジョン」というはっきりした定義があるわけではありません。

 実は、世界の経営学ではこの「リーダーのビジョン」という曖昧な概念に対して、心理学や統計分析を使って、多くの研究が行われています。そこから色々な知見が得られているのです。

 ビジョン研究は膨大で、その全貌を1度に書き切ることは不可能です。そこで今回は、私が独断で「ビジネスパーソンに有用かもしれない」と考える2つの切り口に焦点を絞ってご紹介します。それは「ビジョンの特性」と「ビジョンの伝え方」です。

「リーダーのビジョン」に求められる特性とは

 リーダーのビジョンの重要性は、色々なところで語られています。例えば「20世紀最高の経営者」と言われたGEの元CEO(最高経営責任者)ジャック・ウェルチ氏は、部下を評価する際に「業績は優秀だが自分のビジョンに共鳴しない部下」と「業績はイマイチだけどビジョンに共鳴している部下」であれば、後者を会社に残し、前者にはGEを去ってもらっていたというのは有名な話です。

 そして、優れたビジョンが企業の業績によい影響を及ぼす可能性も、多くの研究で示されています。今でもよく研究者に引用される研究は、米メリーランド大学のロバート・バウム達3人が1998年に「ジャーナル・オブ・アプライド・サイコロジー」に発表した論文です。