業績も大事ですが、健康はもっと大事ですね。業績と引き換えにその社員の寿命を縮めているなどという事態は、組織にとっても望ましくない。成果だけを見ず、どれだけ健康的な状況にあるかもしっかり見なければいけません。燃え尽きて退職されてしまったり、最悪の場合命を落としてしまったりしたら、元も子もありません。

これまでのやり方では、新たな成功にはつながらない

 それだけでなく、変化の速い環境の中で生きていくうえでは、人はもっと柔軟でなければいけません。変化にすぐ対応できなければいけない。危険を避けると同時に、機会にうまく乗っていくことも必要です。そのためには、人が心に描いている自分の成功モデルも変えなければいけないのです。1つの大きな成功をおさめたら、次の新しい成功のためにまた大きく変わらなければいけないのです。それが成長というものです。これまでのやり方では、次の新たな成功にはつながらないのです。

本書に紹介されている自己分析などを通じて、2人は気づきを得て最終的には成長できましたが、当初なぜなかなか変われなかったのでしょう。

キーガン:自分がこれまで携わってきた仕事における成功体験がそのまま自己尊重感につながり、自分の価値基準になっていて、そこから距離を置くことが恐怖につながっていたのです。そのような固定観念や気持ちが、自分自身も気付かない「裏の目標」――例えば他人に依存せず万能でありたい、自分の影響力を行使したい、弱みを見せたくないなど――を突き動かすことになってしまい、昇進して変わる必要性が分かっていてもなかなか変われない、変革を阻む「免疫機能」になっているのです。

 しかしそれは、優秀な人材をシニアレベルに昇格させると良くあることでもあるのです。昇進すると、これまでよりもかなり複雑な状況に放り込まれます。そもそも彼ら・彼女らが中間管理職になれたのは、仕事の核心を理解すると同時に、会社が置かれている産業構造も分かっているからでしょう。そうした人は、さらに昇進しても、最初はこれまでの知見を生かせばいいのだと思ってしまう。

 しかし実際はシニアになると、これまでとは全く違う仕事をさせられることになります。しかも、個々の仕事が必ずしもビジネスの革新に直接つながるわけでもない。新たな仕事は、それよりは、才能ある人材を選んだり、人々を教育したり、難しい意思決定をしたり、人と人の対立を解きほぐしたり、そんな仕事がメーンになります。それがリーダーの仕事ですから。

 「偉くなると、現場のことが分からなくなる」という不満を聞くことも多いです。しかし上級管理職に昇進した以上、そのようなことはもはや求められないのです。全く新しいスキルを身につけるよう求められるのです。

 自己主導型知性の持ち主にとって、自分が信念を持って取り組んできた仕事を人に任せるのは罪悪感が伴い苦痛かもしれない。自分が仕事をきちんとしていないと思えて辛くなるかもしれない。しかし、それがその人にとっての新たな挑戦なのです。今まで成功してきたからこそ、さらに自分を変えて、一段上の段階に成長しなければならないのです。

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