本書に引用されている研究によると、成人の知性レベルの分布が「自己主導型知性」より上に到達している人が半分を大きく下回り、自己変容型の割合は数パーセントです。そこまで到達した人は仕事の能力が高いということですが、自己主導型ぐらいまで成長できれば十分なのではないですか? また、なぜ全員が年齢と共に自然に自己変容型まで到達できるわけではないのでしょうか。

キーガン:まず大事なのは、どの段階も、前段階で見られる限界を克服したからこそたどり着いているという点です。どの段階についても尊敬すべき点があります。2段階目の、自律的に動ける人材に成長しただけでも大変な進歩です。人に依存せず他人の意見に左右されず、個人として権威ある人物足りえるくらいの段階です。実際、人類の進化の歴史の中で、現在ほど多くの人が自己主導型に到達できたのは、ごく近年のことですから。

 自己主導型知性を獲得すると、必ずしも文化的規範に捉われることなく活動できます。大昔であれば、「人は文化的規範を超えて成長することなどできない」とすら言われていました。しかし今やそうではなくなったのです。現実に、私たちの社会は以前よりはるかに多様な社会を実現していますが、多くの人が自己主導型知性に達したためでもあるでしょう。そのこと自体、大した進化なのです。

人の知性の発達にはとても時間がかかる

 それでも自己変容型という最終段階にそれほど多くの人たちが到達できないのは、人の知性の発達に大変時間がかかることと関係しています。発達段階が複雑になればなるほど、よりそこから抜け出すのには時間がかかります。どういうことかというと、例えば大人の知性の3段階だけでなく、子供にも発達段階がありますよね。

 幼児は知性の次の段階に到達するまでに、つまり生まれてから話したり歩いたりできるまでに2年ぐらいしかかかりません。その次の段階には5年、さらに青年期の段階に成長するには約10年といった感じで、かかる時間がどんどん倍増します。知性のレベルが複雑になればなるほど、次のステージに成長するためには時間が必要となります。

大人の知性の発達が3段階になったのは、最近のことなのですか。

キーガン:150年前、人の寿命は今よりはるかに短かったですね。40代~50代で亡くなっていました。知性の最終段階まで成長する人が少ない理由の1つは、そこにもあります。発達理論における大きな考え方の1つとして、種としての我々が長く生きるようになった理由の1つは、さらに複雑で高度な知性を創造できるようにするためだ、という考え方があります。つまり、一見解決不可能に思える大きな問題を解決し、種の断絶という脅威を克服するため、長生きするようになったというのです。知性の進化には年齢を重ねることも必要なのです。

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