そして、連載の同じ回で述べたように、トランザクティブ・メモリーを高めるには、顔を突き合わせての直接交流が重要である可能性が、複数の研究で指摘されています(例:米イリノイ大学のアンドレア・ホリングスヘッドが1998年に「ジャーナル・オブ・パーソナリティー・アンド・ソーシャル・サイコロジー」に発表した研究)。

 アイコンタクトや身振り手振りを交えてブレストをしたり、あるいは(デザイン会社なら)製品のプロトタイプなどに共に触れながらブレストをしたりするほど、知らず知らずのうちに「この製品の知識のことは彼に聞けばよい」といったことが組織全体で共有化されていくのです。

ブレストはメンタルモデルを揃える

 ブレストの第2の役割は、参加メンバーが組織の「価値基準・行動規範」を共有しやすいことです。たとえばIDEOのブレストでも、一般的なブレストのルール同様、互いのアイデアを肯定することが尊重されます。そしてこの価値基準は、「より突飛で大胆なアイデアを出す」行動を促します。

 さらに、この行動規範はブレストの場を超えて、組織全体に浸透することが期待できます。ブレストを繰り返すほど、多様なメンバーが入り交じって同じ価値を共有し、それが日頃の業務でも意識されるようになるのです。実際、サットンとハーガドンの論文によると、IDEOではブレストが終了した後もデザイナーたちがそのまま意見交換を行うことがよくあり、そうしたインフォーマルな交流から新しいアイデアが出てくることも多いようです。

 経営理論では「シェアード・メンタル・モデル」がこの考えに近いといえます。これは「組織学習では、組織メンバーがメンタル・モデル(=基本となる思考体系)を共有していることが重要」という考えです。先の価値基準・行動規範はまさにメンタルモデルです。そしてトランザクティブ・メモリー同様、顔を突き合わせての直接交流の方が組織はシェアード・メンタルモデルを高めやすい、という研究結果も出ています(例:米トューレーン大学のメリー・ウォラーたちが2004年に「マネジメント・サイエンス」に発表した研究など)。

 このように、ブレストは「その場でアイデアを出す」機能としては実は効率が悪いのですが、他方でブレストの場を超えて、企業全体での学習能力を高める効果がある、というのがサットンとハーガドンの主張なのです。

アイデアが出ないことを恐れるな

 もちろんこれはIDEOという一企業の事例から得た結論ですから、どれだけ他企業に一般化できるかは分かりません。しかし、この結論が経営学でよく知られた組織学習理論と整合的なこともまた、上に述べた通りです。そして、もしこれらの主張が一般性を持つなら、みなさんへの示唆も大いにあるのではないでしょうか。以下、私見を述べさせてください。

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