サットンとハーガドンは、IDEOのシリコンバレー本社で、1994年から96年にかけて徹底的な内部調査をしました。具体的には、社内の約60人のデザイナーやスタッフと4つのデザインチームにインタビューし、またほかの多くのデザイナーと数百回もインフォーマルに議論し、さらに同社の顧客10社にも取材しています。さらに、2人はIDEOの社内会議に出席し、社内のブレストにも参加し、さらに多くのブレストの模様を録画して分析しました。

 そしてサットンとハーガドンが出した結論は、「IDEOのブレストは、「アイデアを生み出す」ことを超越した役割を持っている」というものだったのです。

ブレストは組織の記憶力を高める

 その役割は6点にも及ぶのですが、本稿のテーマに関連して特に重要なのは以下の2つです。

 第1に、IDEOでのブレストには「組織(IDEO)全体の記憶力を高める」効果があることです。

 IDEOには世界中から多様な業界の製品デザインの依頼が来ます。この多様な業界・製品の知の組み合わせこそが、IDEOの創造力の源泉といえます。しかしそのためには、それらの多様な情報・知が組織内で蓄積され、共有される必要があります。

 サットンとハーガドンは、デザイナーたちが顔を突き合わせてブレストすることは、「誰がどのようなアイデアを持っているか」「誰がどの製品に詳しいか」などについて広く知る機会となり、それがIDEOの「組織の記憶力」を高める結果になっている、と主張したのです。

 ここで思い出していただきたいのが、本連載で紹介した、「トランザクティブ・メモリー」です。

 トランザクティブ・メモリーは、組織学習研究の重要なコンセプトです。その骨子は「組織に重要なのは、組織の全員が同じことを知っていることではなく、『組織の誰が何を知っているか』を組織の全員が知っていることである」というものです。

 ヒト1人の記憶力には限界があるのですから、組織全体に蓄積されている知全体を各自が覚えるのは非効率です。そうではなく、「誰が何を知っているか」だけを共有しておき、ある知識が必要になったときには、すぐ「その知を持っていると思われる人」に聞けばよい、というのがトランザクティブ・メモリーの考え方です。

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