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 本連載では、2013年まで米国のビジネススクールで助教授を務めていた筆者が、世界の経営学の知見を紹介していきます。

 さて、みなさんの中には、新しいアイデアを出すために「ブレイン・ストーミング」をする方も多いかと思います。複数の人が共にアイデアを出し合うブレイン・ストーミング、いわゆる「ブレスト」は、ビジネスでは新製品企画、キャンペーン企画などの「新しいアイデア出しの場」としてよく使われています。

 ブレストの目的が「アイデアを出す」ことなのは、みなさんの共通認識でしょう。ところが世界の経営学研究では、「ブレストでアイデアを出すのは、実は効率が悪い」という結果が得られています。まるで本末転倒な印象ですが、しかしこれは、ブレスト研究者の間ではよく知られたことなのです。

 なぜブレストはアイデアを出すのに、むしろ効率が悪いのでしょうか。今回は、「組織に求められるブレイン・ストーミングのあり方」について、世界の経営学の知見を紹介していきましょう。

ブレストではアイデアを出せない

 「アイデア出しが目的のはずのブレストが、アイデアを出すのに効率が悪い」ことは、「プロダクティビティー・ロス」という矛盾として、経営学や社会心理学では古くから知られてきました。このテーマに関する研究の多くは、実験手法からその傾向を見つけています。

 この手の研究では、たとえば数十人を集めて5人ずつの組を作り、「5人が顔を突き合わせてブレストする組」と「5人が個別にアイデアを出して最後にアイデアを足し合わせる組」に分けて、それぞれから出てきたアイデアを比較します。そして多くの研究で、前者よりも後者の方が、よりバラエティーに富んだアイデアが多く出ることが示されているのです。

 たとえば、米シラキュース大学のブライアン・ミューレン氏ら3人の研究者が1991年に「ベイシック・アプライド・ソーシャルサイコロジー」に発表した論文では、「メタ・アナリシス」手法を使って、それまでに発表された18本のブレイン・ストーミングの実証研究結果を集計した分析をしています。そして過去の研究の総合的な結果として、やはり個人がバラバラでアイデア出しをする方が、ブレストよりも、出てくるアイデアの数(バラエティー)も、アイデアの質も高まる傾向を示しています。

ブレストはなぜ失敗するのか

 なぜブレストではプロダクティビティー・ロスが起きるのでしょうか。経営学・社会心理学では、2つの説明が主にされています。第1は「他者への気兼ね」です。複数人だと、どうしても「自分のアイデアを他の人はどう評価しているか」が気になります。もちろんブレストでは「他人の意見を否定しない」ことが基本ルールなのですが、それでもやはりヒトは他人の評価を気にするものです。この気兼ねにより、参加者からは思い切った意見が出にくくなります。