至る所でひずみが生じています。

藤田:マクロ経済スライドで年金はこれからどんどん減っていきます。月額8万~10万円は当たり前。その範囲内で暮らせるビジョンを描き、「総下流化」時代に備えないといけません。個人の努力で資産を形成してください、というのはどだい無理な話になっています。

まずは危機感を持つところから始めるべきでしょうか。

藤田:先ほど危機意識が低いと話しましたが、実は多くの人は薄々、気づいているのだと思います。だからこそ、『下流老人』も2カ月で8万部売れたのではないでしょうか。自分もこうなるという危機感があると思います。それは1700兆円もの個人資産のストックにも表れています。

窃盗、強盗未遂も

日本人には、自分の資産を子供や孫に残さないといけないというマインドがあり、その固定観念が自らの首を絞めている面もあるように感じます。

藤田:そうですね。子供や孫の行く末が心配。非正規社員・従業員が増えているから、余計に心配、とすべてがつながっています。せめて家だけでも残しておきたい、というのが日本の持ち家信奉のベースですし。

高齢者による犯罪も増えています。これもベースに貧困がありますか。

藤田:はい。私は年間300件ぐらい相談を受けていますが、そのうち20件前後は犯罪がらみです。無銭飲食や詐欺、窃盗。窃盗は万引きもあるし、強盗未遂まで至ったケースもありました。

「生活保護は恥という考えを捨てて」と呼びかける藤田氏
「生活保護は恥という考えを捨てて」と呼びかける藤田氏

 貧困から食事を採れない高齢者は刑務所や拘置所に入れば、1日3食を確保できる。彼らは、どうしたら刑務所に入れるかを考えて犯罪行動を起こします。犯罪に手を染めるのが嫌で自殺してしまう高齢者もいました。

犯罪までいかなくても、生活保護を受けるのは恥だという考えは日本で根強いですね。

藤田:本人の考えだけでなく、実際に周りの視線も冷たくなりますから。でもその考えは改めないといけません。恥ではなく努力した結果だという受け止め方をしてほしいと願っています。

犯罪絡みでは、高齢者が加害者ではなく被害者になるケースも増えています。代表例が「オレオレ詐欺(振り込め詐欺)」でしょう。

藤田:オレオレ詐欺の被害者には、軽度の認知症の人が極めて多い。犯人は一度釣れたなと思ったら、どんどん付け込んできます。

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