ニーリー:それが結構驚きなのです。流暢さにおいて高、中、低の3つのカテゴリーに分類して、参加者全員の会話を録音しました。そして3人のハーバード大学の言語学者が、それぞれの感情について評価しました。

 それから、本人たちに対しても、自分自身の英語レベルをどうランクづけるか聞いてみました。すると、「自分の英語力は中級ぐらいのレベルだ」と答えた人が一番多かったのです。すなわち大体の人は自分の英語力は平均的だと認識していたということです。

入山:興味深いですね。

ニーリー:さらに面白いのは、みんな「自分は平均的だ」と答えているのに、実際の英語力は平均的なレベルの人ばかりではなかったということです。言語学者によれば、そのうち1%の人は大変高いレベルでしたが、自分たちは平均レベルだと感じていました。そして、平均レベルの人と同じようにふるまっていました。

入山:それは、心理学の社会認識理論とかそういう話でしょうか。

母国語での能力が高ければ高いほど、ギャップは激しい

ニーリー:その通り。ポイントは、自身の地位や母国語のレベルの高さと英語能力の間の差が、自分たちの感情を決定づけるということ。例えば母国でPh.D.(博士号)を取った人がいて、母国語の能力が大変高く、母国語でのコミュニケーション力も高いとしましょう。

 しかしこの人があまり得意でない言語の、非母国語圏に完全に移った途端、必要以上にすごく自分の能力が低いように感じられてしまうのです。しかし母国での教育程度が低い人は、そこまで気にならないのです。つまり母国語でのレベルとのギャップが大きければ大きいほど、劣等感も大きくなるわけです。

入山:なるほど。たとえば多くの日本企業では、年長の人ほどより英語を敬遠しがちかもしれません。若い人はもっと意識が高いですが。役員クラスなど、苦手な方のほうが多いですね。逆に言えば、こういう社内で地位の高い人が、英語が苦手であると感じると、新入社員などよりも余分に劣等感を持ってしまう、ということですね。それは組織のフォルトラインを高めかねませんね。

ニーリー:英語は、人類の歴史で最も速いスピードで世界中に広がった言語です。技術のおかげで、MTVも世界中で放映されています。この傾向は、しばらく続くでしょう。英語は共通言語になりつつあり、英語みたいに急速にばーっと広がった言語は、歴史上なかったわけです。

 ギリシャ語、アラビア語、フランス語、はいずれも世界の共通言語の1つですが、英語とはまるで違う。例えば中国では、3億人の人が英語を学んでおり、10万人の英語のネイティブスピーカーが中国に住んで英語を教えています。推計では、現在世界の人口の4分の1が、実用で使えるレベルの英語を話しています。

入山:ニーリーさんはよくご存知のように、中国人の学生が米国に来ると、とても流暢な英語を話す人が多い。でも日本人は違う。私が米国の大学にいたとき中国人の同僚がいたんですが、彼などは中国人の別の同僚とさえ、英語で話していましたから驚きでした。日本人同士だけだったら、海外で絶対日本語で話しますから。日本では中学からずっと英語を学ぶのに、いざ実務で使おうとするとなかなか役に立ちません。

ニーリー:効果的ではないと。

入山:だからこそ、大企業の多くがもっと実用的な英語を教えなければと考えているのだと思いますが、こうした点、どうお考えですか。

ニーリー:世界の共通語、例えばフランス語でも英語でもいいのですが、その習得度と国の規模には相関があります。デンマークなどスカンジナビア半島といった(小さな)国々を見てください。オランダもそうですね。彼らは2か国語を流暢に使います。

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