入山:SAPのケースでは、公用語が英語にもかかわらずドイツ人がドイツ語で話し始めたら、米国人従業員がとても孤独感を感じたということでした。まさに、言語による感情の軋轢が、さらにフォルトラインを生むわけですね。

英語ネイティブはゆっくり話すべき

ニーリー:そうなのよ。皮肉ですね。50企業を研究しましたが、どこでも同じ問題が起こっていました。ですからトップ層が実行計画を練りに練って、会議の運営方法からどう従業員を教育するかに至るまで、微に入り細をうがった戦略を立案しなければいけないのです。

入山:そうした問題に直面した場合、どうすればいいのでしょうか。

ニーリー:一番は、すべての人たちが、そんなことをしたら相手がどう感じるのかについてしっかり理解することですね。それから、大抵の米国人はいつも早口すぎるのです。小難しい語彙を使いすぎるし、共感しようとしない。英語以外の言語の環境で働いた経験がないからでしょう。だから米国人社員の教育も徹底しなければいけない。私はそれを指導しましたが、彼らは変わりました。

入山:素晴らしいですね。ゆっくりしゃべることは大事ですね。しかし米国人が、無自覚なだけでつい早口でしゃべってしまうことは多いでしょうね。

ニーリー:悪気はないのです。それに、公式に英語以外で話す必要がない人たちなので、共感もできない。内省というものがない。ただ自分らしく振る舞っているだけです。私は米国人の人たちには常々、「普段通りではだめなの。少しペースを緩めなさい」と口を酸っぱくして言っています。一方で非英語圏の人には、「もっと話すペースを上げて!」と言っています。互いに調整し合わないといけない。

入山:「上げる」って、どのように上げるのですか?

ノンネイティブは遠慮しないで話すこと

ニーリー:発言を避けるような行動を取らないことです。とにかくしゃべる。非英語圏の人が英語で発言しないのは、確かにそれが難しいからです。「迷惑をかけたくない」と思ってしまう。「間違いを見つけたけれど、まあ言わなくていいか」と手控えてしまう。これはダメです。米国人にこういうべきなんですよ。「ちょっとちょっと! 速すぎて分からないよ。もう1度繰り返してくれない? もっとゆっくりしゃべってよ」。

入山:それは大事なことですね。あなたのもう1つの論文で指摘していたのは、英語が母国語の人は、英語が公用語の企業で地位が高いと。

ニーリー:そうね、言語上はね。

入山:そして非英語圏の人間は、自分が劣っていると感じてしまう。

ニーリー:そうなんです。不利です。会社が英語が公用語だ、と宣言してしまうと、英語が会社にとって価値のあるものになるので、英語ができない人間にとっては立場を失うことになりますよね。

 私のその研究では、ある多国籍企業の社員の英語の流暢さのレベルによって、どれだけ応対に差があるかを調べました。例えば英語が下手な人と中ぐらいの人の関係、中ぐらいの人ととても上手な人の関係、それぞれの組み合わせでずいぶん互いの対応が違うんですね。流暢さのレベルの高低がある種の権益の差になっていて、それが自分の仕事上の地位との相対関係から感情にも影響を及ぼしている。

入山:どの人が一番劣等感を感じていましたか。

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