ニーリー:まず、自発的に始めたうえに、ずっと続けてきていることでしょう。普通は、「他社も英語を公用語化したから、うちもやるか」と、どちらかと言うと他社を追随する形でやっています。楽天は、場当たり的ではなく将来への備えとして自ら英語の公用語化を始めた。戦略的な決定でした。グローバル化への備えとして始めたのです。

 英語を公用語化した2010年以来の楽天を見てください。世界中で会社を買っている。キプロスの会社まで買っています。公用語化以前にはそんなに買っていなかったでしょう。

 また、楽天は英語を公用語化することで、直感には反するかもしれませんが、国外の子会社と、企業理念や労働基準などを共有できた部分もあります。ビジョンを共有できた。英語化によって門戸が開かれたのです。

入山:なるほど、グローバル化の「副産物」としての英語化ではなく、まず英語化が先にあって、その後で戦略が追い付いてきたと言うわけですね。企業理念・ビジョンの共有というと、例えば大手ではありませんがSMKというグローバルに展開している電子部品メーカーは、社歌を英語にして毎朝社内に流し、大きな会議では英語で唱和するそうです。

 一方でタイヤ世界最大手のブリヂストンは、企業理念を日本語のまま、例えばgenbutsu-genba(現物現場)という形で、世界中に日本語で広めて、意味も理解させています。でも、どちらの会社も、日本の本社では普段は日本語です。

ニーリー:それはとても面白いですね。

入山:ブリヂストンの「現物現場」は、decision-making based on verified on-site observationという、英語の解説がついています。目的はSMKもブリヂストンも同じなのに、やり方は違う。実は日経ビジネスのバックナンバーの記事に書いてあったことなのですが(笑)

ニーリー:なんと。それは信じがたいですね。面白い。SMKの社歌ですか、見せてください。“Burning with desire, destined to inspire, we’re reaching higher…”面白い会社ですね。

入山:やり方は違うのですが、いずれの会社も、言語と企業理念の間には密接な関係があると認識しているところは、共通していますね。

ニーリー:それは全くその通りです。もう一歩進めると、何をしようとしているかについて足並みをそろえることができるし、現場社員レベルまで企業の使命を浸透させることができます。

言語は、感情であり能力であり、ツールである

 言語とは、感情であり、能力なのです。非公式・公式なネットワークの形成手段であり、説得のツールであり、影響を及ぼす手段なのです。とてもユニークですが、職場の基本理念にもつながっているのです。

入山:そうした企業もある中で、楽天は大胆な英語公用語化をかなり急ピッチに進めました。他社を見ると、たとえばグローバル化して多様化も進んでいる大手製薬メーカーの武田薬品工業ですら、取締役レベルでは英語を話すものの、一般社員は必ずしも話す必要がないと聞きます。

ニーリー:楽天の場合は電子商取引のビジネスで、要するにインターネットビジネスです。世界では、5億6500万人以上の人が英語でインターネットを使っています。インターネット上は、英語が共通言語になりつつあるのです。また、テクノロジービジネスでもありますから、動きも速い。

 もう1つは、楽天はサービス産業でもあるということです。製造業とは違います。在庫管理をしているわけではない。つまり多くの調整が必要で、たくさんコミュニケーションを取らなければならないし、国をまたがって、エンジニアが共通言語で会話をしなければいけない。

入山:なるほど。産業の特徴にもよるということですね。グローバル化について話すとき、日本企業は製造業、たとえばトヨタやパナソニックなどをすぐ想像してしまうのですが、それはちょっと違う、というわけですね。

ニーリー:そうですね。かなり違います。例えば日産はルノーと提携していますので、グローバルな要素と領域もありますね。だから英語が必要ですし、英語を実際に使っています。そもそもトップがフランス人のカルロス・ゴーン氏です。

入山:もう十数年前ですが、私が日本で働いていた時に、ゴーンさんが就任した直後の日産に携わる機会がありました。それがとても印象深くて。ゴーンさんが来て、ルノーから人がやってきたら、フランス人側と日本人側に本社オフィス内が分離されたんです。そして私たちは、それぞれ向けに日本語と英語の2つのパワーポイントを用意しなければいけませんでした。今は状況も違うでしょうが。

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