ニーリー:確かに非英語圏の企業の多くにとっては、そうかもしれません。しかし、それを自覚している企業が本当に少ないのには常々、驚いているのですよ。学者が解決策や理論を構築できていないせいかもしれません。とても本質的で大きな問題なのに、グローバル化における研究では、言語による組織の断層については、ほとんど真剣に議論されていないのです。

言語の共通化は、戦略として重要

 グローバル化を担う管理職やリーダーは、自分たちの言語運用力について自覚しているべきなのです。そして、使命の1つとして、言語運用力を戦略の一つとして明記し、会社全体で外国語でのコミュニケーション能力を高める必要があります。でもそんなことはやらない。だから、いざグローバル化に進む段階になって大変混沌とした状況になるのです。

入山:なるほど。会社の使命、すなわちビジョン・ミッションの一部としてすら捉えるべきであると。

ニーリー:企業のビジョンとは何でしょう? 正しいビジョンとは、消費者や顧客、企業の関係者(constituency)にとって、はっきりとした付加価値をもたらすことですね。言語もその使命の一部でなくてはいけないのです。

ツェーダル・ニーリー(Tsedal Neely)氏
米ハーバード大学経営大学院准教授
約10年、ルーセント・テクノロジーズなどビジネスの世界で実務経験を積み、米スタンフォード大学経営大学院で博士号取得(Ph.D.)。4カ国語を操る。専門は組織行動。

ニーリー:例えば、サービス産業の企業が、特定の言語を話す消費者向けにサービスを提供していたり、顧客にサービスを提供するためにグローバルな調整を必要としたりするならば、言語は戦略化すべき要因の1つになります。

 ではサービス業でなければ、共通言語は必要ないのでしょうか。答えはノーです。確かにビジネスをしている国の顧客に接するには現地の言葉があればいいのですが、本社とコミュニケーションを取るためには共通言語が必要になりますから。

入山:興味深いです。とにかく言語も戦略の1つであり、ビジョンやミッションと共にあるべきだということですね。

ニーリー:100%その通りです。それも、かなり細かく実行していかなければなりません。具体的には、戦略のためのアクションプランをかなり具体的に立案することです。従業員同士がどのようにコミュニケーションを取るのか? どのような人を雇うのか? あるいは、どうやって昇格させるのか、などといったことを含みます。

入山:良い事例はありますか。

ニーリー:その意味では、楽天の三木谷浩史会長兼社長はすごいですね。言語を全社戦略の1つとして格上げして、実行しました。「英語公用語化(Englishnization)」は、グローバル化を実現するうえで、カギとなる仕組みです。しかもとてもうまくいきました。

 もちろん、英語を使っている企業はたくさんあるのですが、楽天ほど明示的にはやっていません。楽天にとっても三木谷氏にとっても、かなり思い切ったことをやる必要があったんでしょう。何しろ、多言語活用は日本企業が一番苦手な領域ですから。

 三木谷会長のやり方は若干過激でしたが、大胆で、素早く、楽天に成長の種を蒔いたと思います。もちろん、従業員にとっては苦痛を伴うことでしょうけれども、楽天の将来にはプラスですね。

他社の追随ではなく、将来の備えとして英語公用語化

入山:僕から見ると、楽天はかなり例外的だと思います。三木谷さんは創業者で、強力なリーダーシップがあります。しかし多くの日本企業はそうではない。

ニーリー:そうですね、彼はやや例外かもしれません。でも、三木谷さんは、楽天を新しい日本のロールモデルにしたいといつも言っています。それから、英語化のプロセスを、公衆の面前でやりましたね。

入山:三木谷さんが成功したとおっしゃる秘密は何なのでしょう。創業者であるという以外に、どこが他社と違うでしょうか。

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