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 今の自分とは違う自分になる努力が、他の人からの評価を怖れ、他の人に合わせるためのものであれば、たとえ努力して変わることができても、自分が自分ではなくなってしまうことになります。人に合わせない、あるいは人の期待に応えるような生き方をやめてみることだけでも、気持ちが随分と楽になるはずです。

 他の人に評価されることを怖れる必要はないのです。相手の評価より大切なのは、自分が今やろうとしていること、やっていることに対して自分自身が「YES」といえるかどうかなのです。

 生前はまったく評価されなかった芸術家はたくさんいます。しかし、それでも彼らが絵を描いたのは、他の人にどう評価されるかということを問題にしなかったからです。

10人いればそのうち2人と仲良くできればそれでいい

 オーストリアの詩人、リルケに自作の詩を送ったフランツ・カプスという若い詩人がいました。彼はリルケに自分の詩の批評を求めて手紙を書いたのですが、リルケはその申し出を断りました。批評を求めることなどは一切やめるようにと、リルケは返信の中で次のように書いています。

 「あなたの夜の最も静かな時間に、自分は書かずにはいられないのか、とご自分にお尋ねなさい」(リルケ『若い詩人への手紙』佐藤晃一訳、角川書店)

 当時、カプスは「自分の傾向とは正反対なものと感じられた職業の域をふみかけて」(前掲書)おり、自分は軍人ではなく詩人になるべきではないかと迷っていたのでした。「自分は書かずにはいられないのか」という問いに対して「書かずにはいられない」という返事ができるのであれば、生活をこの必然性にしたがって建てなさいというのがリルケの答でした。

 書かずにはいられないと思えるのであれば、自分が書いたものが他の人からどう評価されるかは問題にならなくなるでしょうし、自分がどう生きていくかは、その答えから必然的に導き出されます。決して、他の人から指示されることではありませんし、他の人の期待に合わせるようなことではないのです。

 「自分が自分のために自分の人生を生きていないのであれば、一体、誰が自分のために生きてくれるのだろうか」というユダヤ教の教えがあります。どんなことをしても自分のことをよく思わない人はいます。10人の人がいれば1人はあなたのことをよく思わないでしょう。10人のうち、7人はその時々で態度を変えるような人です。

 一方、残りの2人くらいは何をしてもあなたを受け入れてくれる人になってくれるはずです。あなたはその「2人」と付き合っていけばよいのであって、残りの8人、とりわけ何をしてもよく思わない1人のことで心を煩わす必要はない。それより大切なのは、自分が自分のために自分の人生を生きることなのです。

 人目や他の人からの評価を怖れないために必要なのは、他の人の人生ではなく、自分自身の人生を生きる勇気です。

 (この記事は日経ビジネスオンラインに、2014年6月24日に掲載したものを転載したものです。記事中の肩書きやデータは記事公開日当時のものです。)