「あいつ、マジ使えない」のひどさ

要は、理念に共鳴してきた人たちの集団である限りにおいては、高いレベルでのコミュニケーションは成り立つし、仕事の効率も高くなる。だけど、規模が急激に大きる瞬間に、皆の意識も足並みもそろっていかなくなる...。その時にどうすればいいか?という問題ですね。では、(おまたせしました)中土井さんはどう思いますか?

中土井:組織にはいろんな段階があります。単なるその場に集められただけの集団もあれば、理念を共にし、互助精神で1つのゴールに向かっている集団もある。僕の専門の『U理論』は、組織体が現在どのような状態で、どうすればよりイノベーションが起りやすい状態になるのかという枠組みを提示している理論であり、手法です。


 今回は詳細までは説明しませんが、U理論で大事にしている視点の1つが「組織に参加している人たちの意識」なんです。いくつかの段階に分かれていますが、一番低い(レベル1)状況を、僕らはダウンローディングと言っているんですけど、同僚でも、部下でも上司でもいいのですが、相手のことを「存在しない」と思って接している状況。成績が悪い部下のことを「あいつ、マジ使えない」みたいな言い方が恒常的になっている集団。お互いを人としてみていない。単なるアウトプットマシンとしてしかないレベルです。U理論では、この状態にある時、相手のことをデッドボディ(死体)として接しているとも表現しています。

ブラックな香りも漂います。

中土井僚(なかどい りょう)
広島県呉市出身。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)、インタービジョンなどを経て2008年にオーセンティック・ワークスを設立し、代表取締役に就任。一部上場企業を中心に経営者30名以上のコーチング実績、組織開発コンサルティング・ファシリテーター実績を持つ。

中土井:次のレベル(レベル2)は、意識だけではなく客観的な視点が入ってくるレベル。例えば、営業管理システムを導入して、部下の訪問活動を管理していく方法ってありますよね。それで評価していけば、確かに個人の行動も変わってくるわけです。でも、こうした数字に置き換えた議論も、結局は「人」とは意識してないんです。

 そしてレベル3は、ようやく、お互いを人として接している段階。例えばパフォーマンスが下がっていることに関して、「あいつ、使えないー」と見るんじゃなくて、「最近どうしたのか」がみんなの関心事になる。「家族が大変らしい」とか、それこそ「サーフィンに熱中している」ことも上司・組織が知っている。人としての関与しているレベル。その意味でいえば、イヴォン氏の「サーフィンへ行かせよう」が機能している組織です。この理念も、借り物ではなく、自然と生まれてきたものだから定着するんです。この理念と人の意識・パフォーマンスが恒常的に産まれる段階がその次のレベル4になっていく。

 実は、「理念を作りたい」という依頼をよく受けるんです。でも、いい加減な考えも多いのです。例えば、「理念を作るのは何のために作るんですか」と言うと、半ば切れ気味になって「それはみんなが一致団結して同じ方向を向くためですよ」という。「同じ方向を向くために何でそれが必要なんですか」と言ったら、「みんながまとまるためですよ」と。さらに「みんながまとまることで何をしたいんですか」「それで何がいいんですか」と言うと、「そうやってやったら売り上げが上がるでしょう」と。売り上げを上げるために理念を作るんですか?と言うと、初めてはっと相手は気がつく。手段と目的が完璧に逆になっているケースが少なくない。

 そこ以上は、さすがに突っ込まないんですけど、「何でそんなに売り上げが大事なんですか」と言うと、結局、経営者のエゴだったりする。そこからは思考停止に陥るのでもう一歩踏み込まないんですけど、「何でそんなに売り上げが上がらないと嫌なんですか」と聞くと、「負けたくない」とか、「ばかにされたくない」みたいな答えが結構あるんです。こうした低い次元で生まれた理念、ビジョンはほとんど定着しない。

理念とは、ビジョンとは

理念あってこその仕組みである。逆に、組織運営をスムーズにするために無理やり理念を持ち込んでも馴染まない。まぁビジョンは無理やりでも作れそうな気がしますが...

辻井:会社の理念は、「企業の存在意義」つまりミッションがベースになるはずだと考えています。僕たちで言えば創業者・イヴォンが中心となって作られた「最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを使って環境危機に警鐘を鳴らし、その解決に向けて実行する」というミッションがあり、それをスタッフ全員で共有することが大切です。一方、「ビジョン」というのは〇〇年後に目指すべき未来の状態のことです。そういう意味では、乱暴に言えば、5年ビジョンとか10年ビジョンは誰にでも作ることができます。でも、組織のビジョンであれば、そのベースになるのはやはりミッションであるべきと考えています。

 ミッションは「Why」(どうして自分たちは存在しているのか)、ビジョンは「What」(自分たちが実現したい未来は何か)と考えると分かりやすいと思います。それを実現するための戦略や戦術が、「How」です。そういう意味では、特に「Why」の部分は、外部の専門家を呼んで決めるというよりは、自分たちはなぜ存在するか、自分たちの存在意義は何かという根っこの部分を社員同士で考えることが必要なんだと思います。そして、そのミッションを実現するために大切にすべき価値についても、実際の業務での振る舞いに落とし込むと、それはどんな行動を指すのかをお互いに深く考えることが大切です。

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