辻井:イヴォンの最新著書『レスポンシブル・カンパニー』の中でも触れられているんですが、ネズミと人間の遺伝子の99%は同じらしいんです。1%の違いだけで全く違う生物になる。パタゴニアはこれまで、非常にユニークで特殊な企業だと思われてきました。確かに、創業者は著名なクライマーであり、鍛冶職人で、環境保護活動家です。彼は「百年後も存在するための新しいビジネスの形がある」と世界に訴え、そうした理念に共鳴してサーファーやクライマー、技術者など集まってきたわけです。

 もの作りのポリシーも一貫して徹底していて、コストが高くなるのを承知でオーガニックコットンに切替えたり、ポリエステルやナイロンは出来るだけリサイクル素材を使っていますし、世界中で契約している工場では、その国で定められている最低賃金よりも25%以上高い報酬を払うなどのポリシーもあります。そういうコストや手間の掛かる方法を大切にしてきましたし、それでも、利益を生んできました。

 ただ、そうした「違い」は確かに非常に目につきますが、ビジネス全体という営みで見れば「1%」程度のボリュームかもしれない。現実には、他企業と同じように地道に取り組むべき課題が社内外に山積みです。優れた製品を生み出すための製品開発、適切な生産管理と物流システムの構築。セールスチャネルの開拓やシステムの構築、人財育成や健全な会計制度とコンプライアンスなど。組織体として、99%は他の会社と同じようなビジネス環境にさらされているんです。

 これはあくまでも僕の個人的な感覚ですが、これまでパタゴニアは、そのユニークな1%にフォーカスし、そうした強みを生かすことによって成長してきました。でもここから先、外的な経済要因に打ち勝つという意味だけではなく、質的にも成長を遂げるためには「理念や文化を保ちながらも、一段高いレベルの組織に脱皮していく段階にきている」と感じています。

1%のユニークさを維持するため、99%の部分を鍛える

「もう一段高い」レベルの組織?

辻井:はい。僕はイヴォンが引用した「1%の違い」という言い方がしっくりきたので、社内でもよくその話をします。僕たちはこれまで1%の違いをとても大切にしてきたけど、残り99%もしっかり見直していこうと。特に、日本支社はまだスタッフ数400人ぐらいと規模も小さく、組織として成長できるチャンスが沢山あると感じています。

 人間や組織の中で、「これまでのやり方を変える」ということに対して拒否反応のようなものが出るのは自然だと思います。だから今社内で推進している様々なプロジェクト、例えば、新しい企業基盤システムの構築(ERP)や人事制度の見直しなどを見て、「パタゴニアは変わってしまうのか」と危惧するスタッフがいるかもしれません。でも、実際にはスタッフやお客様が愛してくれている「独自性」を維持するためにも、99%の部分をしっかりと考えないといけない。

独自性、理念だけは成長できない?

辻井:矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、僕たちの理念やユニークさは、むしろ、これからもっと大事になってくると思っています。例えば、僕たちの理念に則って、物流における環境インパクトを最小化しようとすると、それには高いレベルのデータが分析できる企業基幹システムが必要になります。どこで、どのお客様が、どのタイミングで、どんな製品を必要としているかを出来るだけ正確に予測し、グローバルの生産管理システムと連携しながら入荷計画を立てる。そうすれば、需要を直前に把握して慌てて空輸するのではなく、より負荷の低い船便で入荷することが可能になるかもしれません。

 ただ、ここで大切なのは、生産管理システムであっても、人事制度であっても、社外から既存のシステムをそのまま持ち込むのではなく、パタゴニアが自分たちのユニークさを失わずに「理念」を実現するために、仕組みをカスタマイズしながら構築いくことが大切だと思っています。

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