パタゴニアの創業者であるイヴォン・シュイナード氏が書いた『社員をサーフィンに行かせよう』は2007年に出版されたビジネス書だが、その後、ビジネススクールで「必読書の1冊」に挙げられるなどロングセラーになっている。この本の魅力はパタゴニア創業者の常識を覆した破天荒なスタイルにあると言われているが、その経営はいたって真面目。人が集まる組織とは何か、働くとは何かを愚直に考え、良い会社像を求め続けているプロセスが書かれている。日本では最近、よい会社、悪い会社の議論が再燃している。組織論の専門家である中土井僚氏と一緒に、辻井隆行日本支社社長に、パタゴニア流の新しい働き方論を聞いてみた。
(聞き手は瀬川 明秀)
辻井:創業者であるイヴォン・シュイナードがよく言うのですが、「パタゴニアの製品は流行とは無関係だ。今見ても流行の最先端ではないし、10年経って見ても流行遅れでもない。そういうものを我々は目指しているんだ」と。最先端のファッションは3年後には最先端ではなくなるから着られなくなります。そうした、使い捨てのファッションとは無縁でありたいからです。
ブランドを壊すなんて簡単 誰でもできます
アウトドア系ブランドは個性的なところが多いのですが、パタゴニアは孤高のイメージがあると言われています。何をやっても、パタゴニア的といわれる雰囲気さえありますね。

1968年生まれ。91年早稲田大学卒業。日本電装(現デンソー)勤務、早稲田大学大学院修士課程などを経て、99年、パートタイムスタッフとして、パタゴニア東京・渋谷ストア勤務。2000年に正社員になり、2009年から社長。
辻井:そうかもしれませんね。僕自身は、「ブランド」は意図して作れるものではなくて、僕たちが取ってきた行動の結果として「パタゴニア」というブランドが出来上がったという風に捉えています。今という瞬間は過去の集積であり、未来の出発でもある、というのと、ブランドは似ているように思います。自分たちがやってきたことの積み重ねに対して、周囲がどう見て下さっているかがブランドだと思うんです。逆に言うと、これまでの信念を曲げた行動を取れば、ブランドは簡単に壊れてしまうような気がします。
例えば、私たちが行動する際に、これまで大切にしてきた哲学を一切考えなくなったとします。そうすると、これまで築き上げてきた「パタゴニア」というブランドのイメージは段々と変わってしまい、やがてその価値は失われてしまいます。これは、パタゴニアだけでなくて、例えばスターバックスのような哲学を大事にしている企業はどこも同じはずだと思います。
中土井:辻井さんはフォーマルなセミナーなんかでもパタゴニアの商品を着て、登壇されますね。「こういう場だったらもっとフォーマルな格好をした方がいいと思うんですけれども、自分はこの商品が好きなので、すみませんが、いつもの格好で話をさせてください」と挨拶される。これはいいなぁと思っていました。嫌みではなく、自社製品への愛情が感じられるからです。
その後で、辻井さんにパタゴニアの店を案内してもらったのですが、店舗や商品の話よりも、スタッフの方を1人ひとり、熱心に紹介してくれたのが印象的でした。「彼はスノーボードをやっていてね」と、本当に自分の大切な仲間を紹介されるさまに感心しました。
採用のための履歴書は下から読みます
辻井:大崎ストアは、僕自身が日本支社長を任されて初めてオープンしたストアだったので、オープニングスタッフとも特によくコミュニケーションを取っていたというのはあります。ただ、1人ひとりのプロフィールを覚えているのは、パタゴニアスタッフにとっては特別なことではないかもしれません。社内では、初対面の挨拶は、「アウトドアスポーツは、何をやっているんですか」と聞くのが定番です。だから、みんな誰が何をしているのか分かっていると思います。「彼はカヌーで激流を下っている」とか「彼女は110キロのトレイルランニングレースを何度も完走している」とか。地方の店舗のスタッフ同士は会う機会が少ないんですが、鎌倉本社のスタッフはお互いのことを良く知っています。僕たちは半ば真剣に「履歴書は後ろから読め」と話し合っています。まず、趣味の欄から読んで、次に人柄を見て、最終に学歴や職歴をみる。
日本支社は米国と同じ方針で採用をしているんですか?
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