欧米の食習慣が病を生んでいる

 これまでの研究で判明したのは、伝統的な食文化を持つ集団がそれを捨てて欧米の生活様式を取り入れると、問題が起きやすいことだ。

 たとえば中米のマヤ人の場合、糖分の多い欧米式の食習慣が1950年代に入り込んだ後、糖尿病を患う人が激増した。シベリアのヤクート族は伝統的に肉を多く食べてきたが、かつては心臓病になる人はほとんどいなかった。しかし、ソ連崩壊後に定住が進み、店で買った食品を食べるようになった結果、今ではヤクート族の定住者のおよそ半数が肥満になり、ほぼ3分の1が高血圧だという。また、ボリビアのチマネ族でも、店で買った食品を食べている人のほうが、狩猟採集を続けている人よりも糖尿病になりやすい。

 そして、多くの古人類学者は、「パレオダイエット」には懐疑的だ。加工食品を避けるのは良いにしても、肉中心の食事は、多様な食物をとっていた祖先の食習慣とは異なるし、太古の人々は日常の運動量が多かったおかげで心臓病や糖尿病にならなかったことも考慮されていない。

ギリシャ、クレタ島の伝統食ゼラニウムの葉のフライ(Photograph by Matthieu Paley/National Geographic)

「多くの古人類学者が指摘するのは、旧石器時代の食事といっても、いろいろあるということです」と、ウェナー・グレン人類学研究財団のレスリー・アイエロは言う。「人類の食習慣の歴史は、少なくとも200万年前までさかのぼります。その間には、多様な食文化が生まれたのではないでしょうか」。

 言い換えれば、理想的な食習慣は一つではないということだ。人間を人間たらしめたのは肉食ではなく、多様な環境に適応できる能力であり、さまざまな食料を組み合わせて、健康的で多彩な食習慣を生み出したことだと、アイエロは考えている。残念ながら、現代の欧米の食習慣は健康に良いとは言い難い。

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