旧石器時代の食習慣は「人類の遺伝的な特質に合った唯一の理想的な食習慣である」と、米コロラド州立大学のローレン・コーデインはその著書『The Paleo Diet(パレオダイエット)』で述べている。

 コーデインは世界各地に残る狩猟採集民の食習慣を調べ、彼らの73%が摂取カロリーの半分以上を肉からとっていると結論づけて、旧石器時代の食習慣にならった独自の食事法を提唱している。脂肪分の少ない肉と魚をたっぷり食べ、人類が調理と農耕を始めた後に食べるようになった乳製品や豆類、穀物は避けるというものだ。

 狩猟採集時代のような食生活を送れば、心臓病や高血圧、糖尿病、がん、そして、にきびに至るまで、現代人を悩ます“文明病”を予防できると、コーデインらは主張する。

人類を特徴づけるのは肉食だけではない

 なかなか魅力的な説だが、すべての人間が肉中心の食事に適応してきたと言いきれるだろうか。化石を調べる古人類学者も、現代の狩猟採集民を研究する人類学者も、ヒトの進化と食習慣の関係はもっと複雑だったと考えている。

 たしかに、人類の祖先が大きな脳を獲得するうえで、肉食が決定的な役割を果たしたとする説がある。類人猿は低カロリーの植物を食べるが、人類の直系の祖先であるホモ・エレクトスは高カロリーの肉と骨髄を食べ始め、1回の食事で十分過ぎるほどのエネルギーを得られるようになり、その結果、脳が大型化したというものだ。

「狩猟はヒトへの進化に決定的な役割を果たし、肉食がヒトの特徴だと、ずっといわれてきました」と、ドイツにあるマックス・プランク進化人類学研究所の古人類学者アマンダ・ヘンリーは話す。「ただし、この説では事実の半分しか説明していません。狩猟採集民が肉を好むのは確かですが、実際に常食としていたのは、植物なんです」

 ヘンリーは調査で、人間の歯の化石と石器から植物由来のでんぷんを検出した。そこから、人類は少なくとも10万年前からイモ類だけでなく穀物も食べていた可能性があると考えている。だとすれば、人間が穀物の食生活に適応する時間は十分にあったはずだ。

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