旧石器時代の食事「パレオダイエット」が健康に良いと、米国で話題になっている。農耕の発祥以前から長く人類が食べてきた、狩猟採集で得られる食事こそ、人類に合った食事であるという考え方だ。

 とはいえ、2050年には世界の人口が今より20億人増え、必要な食料もその分だけ多くなる。発展途上国で肉と乳製品の消費が伸びているが、もし誰もがそうしたものばかり食べるようになったら、穀物や野菜を食べる場合に比べて、地球の資源を多く消費することになるだろう。これから私たち人類が何を食べるかは、地球環境に大きな影響を及ぼす重要な問題なのである。

 そこで今回は、人類と食の歴史や進化を追いつつ、私たちのこれからの食を考える。

「狩猟採集時代の食生活で“文明病”を予防」

 かつて人類は、もっぱら狩猟と採集によって食料を得ていた。ところがおよそ1万年前に農耕が始まると、狩猟採集民が使える土地は狭まっていき、今ではアマゾンの森林やアフリカの草原地帯などに残るだけとなっている。狩猟採集民が消滅する前に、太古の食習慣と生活様式を知る手がかりをできるだけ集めておこうと、人類学者たちは精力的に調査を進めている。

 南米ボリビアのチマネ族や北極圏のイヌイット、タンザニアのハッザ族といった狩猟採集民を調査してわかったのは、彼らが昔から高血圧や動脈硬化といった循環器系の病気になりにくかったという事実だ。「現代人の食事と、太古の人類が食べていたものは違うと、多くの学者が考えています」と、米アーカンソー大学の古人類学者ピーター・アンガーは話す。

食料探しに出かけるタンザニア・ハッザ族の女性ワンデと、夫のモコア。ワンデはナイフを棒に取り付けてイモ類を掘る。雨期の常食となる、大切な栄養源だ。モコアは、おのを使って木の幹から蜂の巣を取り出す。弓矢は狩りにも護身にも使う。(Photograph by Matthieu Paley/National Geographic)

 人類はおよそ260万年前から農耕が始まる1万年前まで、野生の動植物を食べながら進化してきた。農作物を中心とした食生活に人体が適応するには、1万年では短すぎるのではないか――。米国では今、そんな考え方をもった人たちが、旧石器時代の食事に注目し、「パレオダイエット」や「原始人食」と呼ばれる食事法を実践している。

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